Crucifix

For non-Japanese speaking readers....




The heavy oak door creaked and a slender, solitary figure of a military officer walked in the dim, candle-lit church.

Her long golden blonde danced on her back as she hastily walked toward the altar and
kneeled.

Her well-tailored blue uniform was stained in dark crimson with dried blood.

After pausing to make a sign of cross, she approached the granite slab, where rows of plain, identical coffins lined.

Among the sea of coffins she found what she was looking for. The resting place of a tall,
raven haired man in French Guards’ uniform. He was her best friend, a protector, a loyal
servant but most of all, he was the love of her life.

Although his uniform was tattered and bloody, his face was serine and peaceful ー
even a hint of smile?

In the dark sanctuary, his handsome face looked as he was asleep. His right eye was closed and his blind left eye was hidden under his satiny black hair. She sat on the cold stone floor and leaned over him. She wondered he would open his beautiful eyes again if she gently
kissed his lips. However she knew his onyx eyes would never smile at her; his passionate lips would never sing her praises again.

She carefully straightened his uniform as she let her tears flow freely from her sapphire eyes. Her tears fell on his body and soaked into the bloody jacket. His muscular body felt so cold
to her touch. It was surreal– only last night she was held tight against this body as they
made love.

“Oh Lord, why have you taken him away from me? I cannot live without this man.”

He was a part of her. Like the air she breathed, he was there with her ever since she could
remember. Together they cried, they laughed and they loved…

“André - My Love, please watch over me. Don’t let me be a coward. Take my hand and
bring me to your side.”

At that moment the moon came out behind the dark cloud and the faint moonlight shone
through the stained glass window – and she saw something glistened around his neck.
It was a thin, silver chain. When she gently pulled it toward her a small crucifix appeared
from inside of his collar. She recognized it as her First Communion gift to him over 25 years
ago.

She smiled through tears.
“André, even in death you are trying to protect me? Can I borrow this for a little while??
Until I see you again.”

She carefully removed the crucifix from his neck and placed it on hers, then tucked it safely
inside of her uniform. She felt her beloved André whispered in her heart.

“See, I am always with you. We are always together….”

She laid her body over his chest and gently stroked his black hair and the beautiful chiseled
face over and over again, singing and whispering softly to him, just like a mother with her
infant.

****************

Hours passed and the old door creaked again. With first sign of the morning light, two men
in French Guards’ uniform came through the door. “Commander?”

Corporal Hulin and Alain de Soissions found her giving one last kiss to her fallen lover.
She slowly raised her head. “Report.” Her face transformed from that of a grieving woman who lost her lover, to that of the Commanding General of French Guards. “Troops all present and accounted for” “Good, we are moving out in 10 minutes”

She stood up and gave one last glance at him. Then walked away to join her soldiers. She
placed her right hand on the crucifix and whispered to André:

“Wait for me, André...”


あとがき:実はこのストーリーは仕事場で思いつき忘れるまえに書きました。ただ仕事場のパソコンは英語しかうてないので英語で書いちゃいました。気が向いたら日本語に訳します。

Camille (カミーユ) 2

Camille (カミーユ)2

「何だってこんなに沢山...?」
アンドレの置いた金貨を見てカミーユが驚いた。
「もう 来ないと思う。明後日出動するんだ。だからおまえも達者でな..いろいろありがとう」  
「へえ〜あんたが兵隊だとは思わなかった!あたしはきっと弁護士か大学教授か何かだと思ってた。」
「俺はただの従僕兼兵卒だよ。最も 屋敷にはもう帰らないだろうけど。」
「じゃあ何処へいくの?」
「そうだな...暖かい所が良い...」

「ね,あたしの頼み聞いてくれる?」  
「なんだい?」
カミーユが鏡台の小さな箱を開けた。
「これを...母さんの貝殻を海に帰してほしいの。」 
白い貝殻を愛しそうに撫でながらカミーユが言った。  
「あたしの母さんは海の向こうの南の国で生まれたの。 結ばれない恋をして苦労のあげく 早死にしちまった。」
遠い所を見るカミーユの緑の瞳にかすかな光がともった。
「もう顔も覚えてないけどこれは母さんがくれたんだ。でもこんな薄汚いとこにおいとくより海に帰してあげたくて...」

「じゃあそれはもう少しおまえが持っていろ。出動が終わって俺が生きてたら取りに来るよ。」

カミーユは静かに微笑んで頷いた。男なんて信じないけど...この男だけは信じたいのは何故だろう。 
「約束だよ!」
カミーユは長身の黒髪の男の後ろ姿をいつまでも見送っていた。

**********

夏が終わり秋も深まる夕暮れに男は娼館にやって来た。 客としてではなく 女との約束を守る為に。銃創もまだ完治していない体をかばいながら見慣れたパーラーを訪れた。 いつものマダムが彼を見た瞬間悲しい眼をしたのは気のせいか? 

「あんた、カミーユはもういないんだよ...」 
男が何も言う前にマダムが言った。 
「ちょっとこっちへ来てくれるかい?」  
マダムは豊かな胸の間から真鍮の鍵を取り出して机の引き出しを開けた。
「カミーユは酔っぱらった客にからまれて刺されちまったんだよ。 息を引き取る前にこれを あんたにって...」 

マダムがアンドレの掌に白いハンカチ包みを渡した。そっと開いたハンカチからは白い貝殻がひとつ燭台の光をうけて青白くかがやいていた。 幸薄い娘の涙のように...



Camille (カミーユ)



アンドレはいつもの用にショコラを載せた銀のトレイを片手に主人のドアをノックした。
「アンドレか? 入れ。」
オスカルの声が弾んでいる。2人で過ごす夜のひと時が待ちきれない。並んで長椅子に腰掛けるとお互いの唇を求めあった。
「この懐かしい香りと力強く逞しい胸に気がつかなかったなんて…私は何て鈍感なんだろう!もう私はこの広くて優しい胸の中でなければ生きていけない!」
アンドレは蝶の羽ばたきの様に甘く優しい接吻をオスカルの蒸気した頬からその白く輝く様な首筋に落としていた。その暖かで甘美な刺激がオスカルを酔わせたがアンドレの指が彼女の胸元のボタンにかかった途端にオスカルの肩が硬直するのが解った。 オスカルは止めなかったがアンドレはその手を離して黄金色の髪に口づける。 「さあ...今夜はもう遅い。 おまえも疲れているだろう...休んだ方が良い。」 
手を差し伸べるアンドレに素直に頷いてオスカルは寝台に横になった。 
「おやすみオスカル。」 
アンドレの黒い瞳が切なそうに何かを訴えていたがそれにオスカルは答えてあげることができなかった。

アンドレがそっと部屋を出ていった後オスカルは寝台の中で目を開けたまま苦悩していた。 アンドレへの気持ちに迷いは無い。 彼を確かに愛している...誰よりも激しく。 彼に全てを預けたいのに。今まで女である事をひたすら押さえて生きてきたオスカルには女と男の愛の駆け引きなどわからない。 いくらアンドレを求めていても自分からその鎧を取り去る事は直ぐにはできない。 
「私はなんて意気地なしなんだ! アンドレは私への誓いを守りぬこうとしているのに。 こんな私を許してくれ..もう少しだけ...」

オスカルの部屋を出たアンドレは無意識に厩へ向かっていた。 永い間見つめ続けてきた愛しい人。 決して許されないと諦めていたその唇に触れた今はもうこの高ぶる心を抑えて眠る事はできない。  
「ああオスカル! 俺はもう気が狂いそうだ!」  
アンドレは馬を駆り夜更けの道をパリへと向かった。 オスカルへの誓いを守るために...

******


パリの小さな酒場で一杯飲んだ後、アンドレは裏通りの娼館に足を運んでいた。 そこはオスカルの婚約騒動が起きた頃通いだした場所だが2人の愛が実ってからはもっと頻繁に訪れる様になってしまった。アンドレが薄暗いパーラーに足を踏み入れるといち早く何人かの娼婦が近よってきた。 安い香水と粉の匂いが鼻を突く。アンドレは愛想よく微笑んでいるマダムに一言 
「カミーユ?」
と訪ねると無言でマダムの指差す部屋の奥の方へ歩いて行った。

アンドレの前に佇む女は黒く艶やかな髪に深い緑の瞳で刺す様に彼を見つめて言った。
「あら,また来たの?」
ジプシ−の血が流れているというオリーブ肌の女は未だ年若いが生きる事の苦しみを知りぬいた様な翳りがある。カミーユの後を付いて階段を昇ると突き当たりに彼女の部屋が有った。寝台と小さな鏡台しか無い殺風景な部屋で無造作にドレスを脱ぎながらカミーユが尋ねる。 
「何か飲む?」 
「いいや,何もいらない。」
自分の服を脱ぎ捨てるとアンドレはカミーユを抱いた。その目を閉じる訳ではなく,女を見る事も無く,機械的に動作だけが進む。

別にこの女でなくても良い。ただこの女を選んでしまうのは面倒な会話も何もいらない。ただ俺が必要な物だけをくれるから。そして俺はしっかりとこの目を開けたままこの女を抱こう。眼をつぶればおまえへの欲望を俺の脳裏から引き離す事などできなくなるから。たとえ俺の想像のなかでさえ無垢で気高いおまえを汚したくは無いんだ...

******


又この男が来た。 こんな男前なのに...何だってこんな場末の娼館へくるんだい? ここらの客と違って品がいいし身なりだって上等だし、金払いも良いし...冷たい訳でもなければ乱暴でもない。 もっと良い所でいくらでも遊べるのに。 それにしても本当に性欲を処理するだけの営みね。 私は気楽で良いんだけど...きっとこの人の心の中には触れる事の出来ない愛する女がいるんだろうな...

事を終えるとすぐに男は起き上がった。 
「ねえ...泊まっていってもいいのよ..もう遅いし。」  
「いいや大丈夫さ...金はここに置いておく。 ありがとう。」
振り向きもせずに男はドアに向かった。  
「とても綺麗なんでしょうね...あんたの思い人。」 
ドアに掛けた男の手が一瞬止まった。 嫌だ。 あたしなんだってこんな事聞くんだろう。でもあたしが思った通りのようね。 
「あんたの思い届くと良いね。」 
あたしの言葉にその男は振り向いた。 
「ああ,ありがとう。」 
男は微笑んでくれた。初めて見る男の微笑みは眩しいくらい。 この場所には似合わないほどに。

**********


アンドレはベルサイユへと帰路についていた。
「ああオスカル...俺はこれ以上どこまで自分を抑えられるか解らない...おまえに触れる度におまえとの誓いを破ってしまいそうだよ...」

煌めく星を見つめながらアンドレは深く溜め息をついた。 




Epiphany

腕を組んだオスカルとアンドレが 田舎の教会の石段を下りて行く。ジャルジェ家で行きつけたベルサイユの教会に比べればとても質素で小さいが年老いた神父はとても暖かく2人を迎えてくれた。 目立ち始めたオスカルのお腹を見て, 赤ん坊の洗礼の日取りを心配してくれた。

二人は田舎道をゆっくりと歩く。アンドレは 海の方から吹く風にオスカルをいたわりながら
「寒くないか?」
と自分の外套を脱いでオスカルの肩に掛けた。 
「私は大丈夫だ。自分こそ風邪をひくぞ!」  
それでもアンドレは1歩も譲らない。 
「おまえはこの頃昔以上に頑固になったな。」 
オスカルは諦めた様にアンドレの肩に自分の頭を預けながらふふっと笑った。

アンドレの腕の中には小さな布袋が大事に抱えられていた。布袋の中には老神父が清めてくれた小さな石灰石の塊と香、そして聖水の入った小瓶。

近所の農民が La Petite chaumière に着くと居間で寝ていたスゼットが目を覚まし大喜びで2人の周りを駆け回る。アンドレが足を取られぬ様にオスカルが 伏せを命ずるとスゼットがアンドレの左側に伏せた。アンドレはスゼットを左手で撫でながら, 
「良い仔だ」 
とほめた。 
「おまえの女主人よりもずっときき分けが良いな。」 
と心の中で思った。オスカルは子供が新しいおもちゃの包みをあける様に目を輝かせて布袋の中身をキッチンテーブルの上に置く。先ずは石灰石。
「よし,俺がおまえを抱き上げるから,おまえが書いてくれ。」 
アンドレが壊れ物を扱う様にそっとオスカルを抱き上げるとオスカルは玄関の扉の上に石灰石で  
“17+C+M+B+91” 
と書いた。次にアンドレが静かに祈りを捧げる中でオスカルは  
“Christus Mansionem Benedicat”
と 囁きながら書いた。

思えばこの公現祭の儀式を2人で行うのは初めてだ。ジャルジェ家ではいつもオスカルの母と執事やアンドレの祖母などが毎年行っていた。La Petite chaumière ではオスカルが一応主婦(?)なのだからこの家を清め神のご加護を祈るというのは当たり前だろう。満足げにその儀式を済ますと次に燭台の火を使って香を焚いた。 乳香と没薬の甘く穏やかな香りが部屋中に立ちこめて行く。 
「何時嗅いでも落ち着く香りだな...」  
オスカルが目を閉じて深く胸一杯にその香りを吸い込んだ。アンドレは内心ほっとしていた。パリを出た頃のオスカルの胸の病は最悪状態でこのような煙や香の刺激は喀血に繋がっていただろう。彼女の病が大分良くなっている証拠である。 
   
「じゃあ聖水は俺がやる。」
アンドレが祈りを捧げながら小さな田舎屋中をあるき回り聖水を蒔いた。慣れた家の中をすべて覚えているアンドレは不自由無く家の中を歩き回れる。

「これで我が家も安泰だ!」 
アンドレは空の瓶をテーブルに置いた。オスカルはその逞しい背中に両腕をまわして抱きつき 
「はい,旦那様。」 
とおどけた。オスカルの両手を自分の両手で上からそっと包みながらアンドレもおどけて行った。 
「はい、奥様。」  

幸せな2人のまわりで公現祭の午後は静かに過ぎて行く...


Fin



あとがき:今日は公現祭です。我が家で家の御清めとご加護の儀式をしていたら,2人が仲良くこの儀式を行う妄想がムクムク...(笑)

ちなみに 17はその年の西暦の最初の2けた、CはCasper , MはMelchior、BはBalthasar (キリスト様のご生誕の際に訪れた東方の三博士の名前)を意味しています。そして91はその年の西暦の最後の2桁。間の+はプラスではなくて十字架です。

オスカルが書いた “Christus Mansionem Benedicat” は 「この家に神のご加護を" という意味です。



 

”牧羊犬”のモデル

家のホワイトシェパードです。”牧羊犬”のモデルの母犬と3匹の子犬達。スゼットのモデルは真ん中の女の子(勢いよく飛び跳ねてる仔です)本名は "Lily" です。母犬は "Konstanze" (私の大好きな A. Mozart の奥様の名前)その後が "Alexei" 君 そして一番最後が "André" 君です!(笑)


牧羊犬(2)

「痛いっ!」
暖炉の前の揺り椅子で子供の肌着を縫っていたオスカルが叫んだ。
「大丈夫か?」
台所からアンドレの心配そうな声が聞こえる。
「ああ,大丈夫だ。針で指を刺した。こういった手仕事は私には向かん!」  
よく見ると小さな肌着の縫い目は余り真っ直ぐでは無いし何度もやり直した所は布が少し汚れている。オスカルは縫いかけの肌着をテーブルの上に置いて溜め息をついた。 
「だいたい私は女だというのに女らしい事は何一つ出来ない!」 
アンドレがオスカル を後ろから包む様に抱きしめた。 
「気にするなオスカル。お前の女らしさは俺が一番良く知っている。それより気分はどうだ?」  
少しだけ大きくなり始めたオスカルのお腹に彼の大きな 掌を優しく当ててアンドレが訪ねた。
「ああ順調だ。もう吐き気も無いし咳も出ない。」  
アンドレの執拗な健康管理のおかげでオスカルの顔色は良く咳血ももう何ヶ月も無い。パリを離れ,きれいな水と空気の中での生活が効果を現したのだろう。 
「これは俺がやるからお前はスゼットの散歩を頼む。」  
白い牧羊犬のスゼットはここ数ヶ月の内に倍の大きさになった。毎日の様にアンドレが罠で捕まえたウサギや野ネズミ、そして小川で取った魚を食べさせたおかげですくすくと育っていた。2人で少しずつ 伏せ, 待て, 来い などを教えて未だ子犬なりにその賢さを見せてくれる。今までは垂れ下がっていた耳もピンと立ち上がり,未だ小さいながらもあの日見た母犬にそっくりになってきた。オスカルが立ち上がると嬉しそうに彼女の足下に走ってくる。
「よしスゼット、散歩に行こう。」  
オスカルがスゼットと外に出るとアンドレは作りかけの肌着に触れてみた。可哀想に大貴族のお嬢様が俺と一緒になった為にこんな事もしなければいけないなんて。もともと手先の器用なアンドレは手際よく肌着を縫い上げていった。

暫くしてオスカルがスゼットと戻ってくる頃には2枚目の小さな肌着が出来上がるところだった。それを手に取ってみたオスカルは涙ぐんだ。 
「お前は何だって上手だ。それに比べて私は何一つ出来ない。お前を喜ばせてやる事もできない...」  
アンドレはオスカルの頬に口づけを落とし、こぼれる涙を優しく吸い取った。 
「そんな事は無い。お前がいてくれるだけで俺は幸せだ。それに今お前はお前にしか出来ない素晴らしい事をしているじゃないか。」   
愛おしそうにオスカルの黄金色の髪を指で透きながら囁いた。  
「私しか出来ない事?」  
「そうだ。お前の中には俺たちの愛の結晶が息づいている。こんな素晴らしい事はないだろ?」  
オスカルの蒼い瞳に幸せそうな輝きが戻った。 
「だからお前はこの子供の事だけを考えていてくれ。それに...」 
 
「それに何だ??」  
オスカルが不思議そうな顔をアンドレの方に向けた。
「お前は何時でもおれを喜ばせてくれるじゃないか...」  
アンドレが悪戯っけたっぷりに微笑むとオスカルの体がふわっと浮いた。 アンドレが彼女を横抱きにして寝室へと向かう。オスカルは耳たぶまで赤くしながらその細い両腕をアンドレの首に巻き付けて彼の逞しい胸に体をあずけた。その仕草が何とも愛らしいとアンドレは思うのだった。 2人の後を追って寝室の方に走ってきたスゼットの前で扉は閉まりそのまま長い事閉ざされたままであった....

牧羊犬

この話は二人が7月13−14日を生き延びたと説定して書いてあります。。。


“。。よかったな、思ったよりの収穫だった!“ 市場で買った野菜や燻製の肉などの沢山詰まった麻袋を背負ったアンドレの腕にそっと手を預けるオスカルはさりげなく人ごみの中の彼を誘導していた。アンドレの美しい目はもう見えていない。住み慣れた家やその敷地内はもう既に把握していて動き回るのに不自由は無かったが初めて訪れた野外市場ではさすがにアンドレも手助けが必要だった。石畳の広場には何列もの台が並びその上で商人や農民達がありとあらゆる物を売っている。その隙間を慌ただしく歩き回る人の群れを避けながら2人は荷馬車が止めてある樫の木の下へ歩いていく。オスカルはパリを離れてからはフランシーヌ(フランソワの女性形)と名乗り今日も未だ慣れないモスリンのドレスに身を包んでいた。長身で美しい2人はよく目立ち誰が見ても相思相愛の夫婦である。

2人の荷馬車の綱がれた樫の木の下では農民らしい若夫婦が 1歳位の男の子と休息しているようだった。その側には雪の様に白い大型犬と3匹の子犬が眠っていた。“珍しい犬ですね。初雪の様に真っ白で。。。こんな犬は見た事無い。” オスカルが夫婦に挨拶をしながら言った。“家の女房はアルザス地方出身でドレスデンに住む親戚からこの牧羊犬をもらったんです。もっとも 家には牧羊犬が必要なほど家畜はいないんですけれど。”  真白い牧羊犬はその純白の毛とは対照的な黒い鼻と賢そうな黒い瞳で静かに眠る子犬と幼子を交代に見つめていた。とその時幼子が母親の膝をはなれて馬車道の方に這い出した。すると何も言わずに牧羊犬が立ち上がり這いずる子供の前を塞いだ。子供は牧羊犬に顔をなめられてケラケラと笑っている。その子供を頭で優しく押しながらまた母親の方向へと誘導していく。”アンドレすごいぞ!なんて賢い犬なんだ!“  オスカルは牧羊犬の行動を詳しくアンドレに説明した。農民の若夫婦はそのとき初めてアンドレが盲目だという事に気がついたらしい。オスカルの説明に見えぬ目を輝かせながら頷くアンドレは妻が愛しくて仕方ないのがだれにでも解る。 “なんせ牧羊犬ですからね,家畜だけではなく子供でも子犬でも誘導する習性があるんですよ。”  ”…何でも誘導する習性か…“ オスカルはしばらく考えこんでいた様だったが 思い切った様に若夫婦に言った。”すまないがこの子犬を一匹譲ってもらえないだろうか。代金は払う。“ それまで無言だった農民の妻がドイツ訛のある暖かく優しいメゾソプラノで答えた。”代金はいりません。賢い犬ですから優しく根気よく教えれば何でも良く覚えてくれます。きっと御役に立つと思います。“ 

オスカルとアンドレは農民夫婦に厚く礼を言って荷馬車に乗り込んだ。2人で並んで御者台に座りオスカルが手綱を取る。アンドレは膝の上で眠る雌の子犬を大事に抱きかかえた。“こいつに名前が必要だな。。。”  オスカルが言った。”スゼットはどうだ?“ アンドレが余リにも早く答えたのでオスカルが眉間にしわをよせた。“そういえば母上着きの女中にスゼットという娘がいたな。赤毛でエメラルドの瞳のなかなかの美人だ。。。お前の好みか?” オスカルが少し拗ねているのがアンドレには良く解る。“馬鹿,俺がお前一筋なのは解っているだろう。スゼットは昔飼っていた犬の名前だ。仕事で留守の多かった父さんが母さんが寂しくない様にって。俺が6歳くらいのときに死んじまったけどその頃には俺もいたし母さん寂しくないから大丈夫だってもう犬は飼わなかった”  アンドレが懐かしそうに言った。彼の黒曜石の瞳は 30年昔を見ている様だ。 オスカルは “そうか。。よし、それではこいつはスゼットに決めたぞ!”  そうと決めるともう機嫌をなおしている。 “オスカル、お前こそどういう風の吹き回しなんだ?突然犬が欲しいだなんて。“   オスカルが考え深げに答えた。 “お前も聞いただろう?誘導するのがこの犬の習性だ。訓練によればお前の目の代わりになってくれるかもしれん。”  アンドレは何も言わなかった。彼が自分の 事で出来るだけオスカルに世話をかけたくないと思っていた。(オスカルはもちろん
その事を苦にしてはいないのだが。。)それを知っているオスカルが彼の自立の為に犬を飼おうと言ってくれたその思いやりが嬉しかった。”それに. . .” オスカルが少し躊躇いがちになった。“それに. . . .?” アンドレがオスカルの頬に優しく手を伸ばした。アンドレは彼女が耳まで赤くなっているのがその指先から伝わる熱さでわかった。“子育てなど縁の無かった私だ。犬にでも手が借りたい!” “子育て?オ。。オスカル。。。お前???”  “ああ,多分間違いない。”  オスカルがはにかみながら答えた。  愛してやまぬオスカルが俺の子供を宿している!! 余りの嬉しさにアンドレの目からは涙が止めども無く流れて止まらない。 アンドレは片手で子犬を抱きもう片方の腕でオスカルの肩をおもいきり抱いた。“おい止せ。馬車が溝に落ちるぞ。そんなに泣くな!”  自分の涙をそっと拭いながらオスカルが気丈に言った。アンドレの愛とこの上も無い幸せをかみしめながら。。。。  




後書き:シェパードが犬種として成立したのも盲導犬が正式に訓練されるようになったのももう少し先の事です。。でも作者の個人的思考と趣味でお二人にホワイトシェパードを飼って頂きます。(笑)ちなみに太古の火山噴火で知られている有名なポンペイの壁画には、目の不自由な男性が犬に導かれて市場を歩く姿が描かれているそうです。

再会〜アラン〜

再会〜アラン〜

暗闇の中を俺はゆっくりと進んでいく。俺は歩いているのか這っているのか...まるで緩やかな川の流れに体を任せるように心地よい闇の中に俺は抱かれていた。体を貫いた銃弾の熱さも疼くような痛みもまるでない。
「そうか...俺は死んだのか...?」
とその時、目の前が突然明るくなり遥かに広がる草原にたたずむ自分を見つけた。雲一つない青空に柔らかな春の様な日差しが心地よい。そよ風に乗って草の萌える香りが俺の鼻をくすぐる。 

「やあ、アラン! 待ってたぜ〜!」
背後から永い事聞いていなかった声が聞こえてきた、と同時に誰かが俺の背中に飛びついた。振り向くとテュイルリー宮広場で最後を迎えた戦友達が微笑んでいる。
「フランソワ,ジャンも!」
俺は昔のようにフランソワの頭を手でくしゃっとやると小柄なジャンを抱え上げた。地面に着かない足をばたばたさせながらジャンが言った。
「アランも出世したな〜。将軍なんて。俺たちの仲間からこんなに偉いやつが出るなんて自慢の種だぜ!」
吃りもせずジャンがすらすらと喋った。フランソワもすかさず,
「そのとおりだ。おれたちはず〜っとアランの活躍を見ていたんだぜ。あの方もご一緒に..」
フランソワがいたずらっぽく言いながら俺の後方に目をやった。

「あの方?」 
おれが振り向くとあの女がいた。風にそよぐ黄金の髪が太陽の光を受けて輝いている。地中海よりも深い彼女の瞳の蒼が俺の心臓を高鳴らせる。  
「た...隊長!」 
あのアベイ牢獄から釈放された日の様に腕を広げて近づいてくるあの女の慈悲に満ちた聖母様の様な微笑みが眩しい。
「隊長はないだろう?私はもう軍人ではないし..第一お前の方が私より位が高い。」
「お..俺にとって隊長はいつまでも隊長ですっ!」
俺は何故か頭に血が昇るのを感じながら早口に言った。畜生.. まるでガキみてえだな..自分で自分が嫌になる。そんなことを考えているうちに隊長は俺の直ぐ前に来ていた。

蒼い瞳を縁取る金褐色の絹糸の様な長い睫毛の一本一本が真近に見えるほどの近距離で真っ直ぐに俺を見つめている 。俺はその瞳に吸い込まれそうになる。今まで忘れた事のなかった愛しい人の甘い香りが広がってくる。俺は水中に溺れる人間の様にその甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 まるでそれが俺に与えられた最後の一息の様に。そんな目で俺を見ないでくれよ...本当に息が詰まりそうだ。

「有り難うアラン。私達の始めた新しい国作りの意思を貫いてくれて。お前のおかげで私にはもう思い残す事はない。よくやってくれたな。皆を代表して礼を言うぞ。」 
「で...でも隊長..新しい国作りはまだまだ完成していない。俺にはまだやらなければ行けない事が沢山ある…」
隊長が俺の言葉を遮った。
「いいんだよアラン。お前はずっと全速力で駆けてきた。お前の残した遺産は次の世代の勇者達に委ねろ。」 
それでも何か言いたげな俺の気持ちを悟ったか隊長が続けて言った。
「歴史の輪というものはとても広大すぎて一人の人間が動かせる物では無いのだよ。私達一人一人の努力がモザイクの様に組み合わされてやっと前進できるものなんだ。お前はやるべき事をした。もう休んでいいんだよ。」 
隊長の笑顔は今までに見た事の無い程安らかで俺の心が甘く疼く。
「さあ,お前の両親や旧友達が待っている。行くぞ。」
隊長は俺の返事を待たずさっさと歩き出した。

あっけにとられて躊躇していると誰かが肩をポンと叩いた。
「気にするな。今は分かり難い事だが直ぐに慣れてくる。オスカルだってお前と同じ顔をして同じ台詞を聞きながらいらいらしていたぞ!」 
何時から来ていたのだか俺の隣にはあの黒髪で長身の親友が立っていた。
「アンドレ!お前見えるのか?」
「ああ,両目ともな!」
昔は前髪で隠されていた左目が光を失われたはずの右目と一緒に輝いている。俺たちは笑いながら肩を組んで歩き出した。
「俺の事もうケツが青いなんて言えねえぞ。俺の方がてめえよりよっぽど老け込んじまった!」
「その通りだな...じゃあこれからは将軍様の奢りで飲ませてもらうぞ!」
「ああ俺に任せろ!」
「それと....」

アンドレがいたずらな目をして可笑しそうに言った。
「俺の女房を見てあんまりでれでれ鼻の下を伸ばすな!みっともないぞ!」
それだけ言い捨てるとあいつはさも可笑しそうに笑いながらあの長い足で走り出した。瞬く間に隊長に追いついたあいつは最愛の女の腰を引き寄せるとその黄金色の髪に口づけを落とした。 畜生!あいつの目は治っても憎まれ口は治ってねえな。俺は顔が火の様に赤くなるのを感じながら拳を振り回してあいつを追った...思いつく限りの悪口をあいつの背中に浴びせながら...





あとがき:お家のお掃除をしていたら突然このストーリーが頭に浮かんできたので早速書いてみました。(笑)一応アランが天国で皆に再会するという設定なのですが,デイアンヌが出てこないのは彼女が自殺したからです。デイアンヌは好きなキャラクターですが私もカトリック教徒なのでどうしても自殺した彼女を天国に行かせる事ができませんでした。デイアンヌファンの方、お許しください。
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Missy

Author:Missy
はじめまして!Missy です。日本語はまだまだ未熟ですが,ここはそんな私の妄想で暴走している AO主義のベルばら二次創作サイトです。
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