願いの石 (2)

November 1793

オスカルとアンドレはレバノン人の夫婦がアミンとザリナだと言う事を知った。

湖畔に設けられたテントには彼らの他にアミンの弟夫妻二組の家族がいた。オイルランプとカルダモンの香りのするテントの中は暖かく、心地良かった。アミンはアンドレがスゼットを使って 3歳の娘イナラを探し出した事を皆に話すと家族中でアンドレに感謝の意を表し、上座へと案内した。テントの中に敷き詰められた絨毯の上には幾つかのクッションが置いてあり、男達はその上にあぐらをかいた。オスカルとアンドレはどうもあぐらをかく事は出来ず、やり場の無い長い足を投げ出して何とか腰を下ろした。

ザリナが二人の前に底の丸い桶を差し出して手を出す様に勧めた。二人の手に暖かく香りの良いローズウオーターが注がれた。
「私達の食事は皆、手で頂きますのでお食事の前にはこうして必ずローズウオーターで手を洗います。」
ジュールとセシルも二人に習ってローズウオーターで手を洗った。

先ず出されたのは焼きたての平たいパンとガ−リックのペーストだった。
「このパンはイエス様が最後の晩餐で頂いたのと同じタイプのパンです。」
アンドレが興味深そうに聞いた。
「キリスト教の事を良くご存知ですね。」
ザリナが微笑んだ。
「だって私達もあなた方と同じキリスト教徒ですもの!」
オスカルの驚き顔がよほど可笑しかったのだろう。アミンがゆっくりと話し出した。
「イエス様が訪れた事もあるレバノンにはキリスト教徒もいるのです。しかしイスラム教の国でキリスト教徒が平和に暮らすと言う事はなかなか難しいことです。私達の父が神に召されたのを機会に新天地を求めてこの国にやって来ました。」
「ああ、そうだったのですか。あなた方に信仰の自由が得られる事を神に祈ります。」
アンドレの言葉にオスカルも頷いた。

「これはフエニキアワインと言って私達の先祖が開発したワインです。」
女の一人が赤黒い液体をグラスに注いだ。ほんのりとシナモンと樫の木の香りが漂う中で二人はコクのあるワインを満喫した。
「これは美味しい。これならばボルドーにも退けを取らないぞ。」
「そうでしょう?レバノンの気候はワイン作りに適しているのです。」
アミンと弟達は早いペースでフエニキアワインをどんどん開けて行く。それにつられてオスカルもかなりの量を飲んだが酒豪のオスカルにはまるで影響が無い。それに比べて三兄弟はだんだん呂律が回らなくなって来た。

「これはキビナイと言って細かく刻んだ羊の生肉にオリーブ油やスパイスを混ぜた物です。そしてこちらはそれをパイ生地で包んで焼きました。」
「これは生だとは思えない味だ。なかなかおいしいぞ!」
おっかなびっくり試してみた二人は意外な美味しさに驚いた。子供達はミートパイの方が気に入ってそれをほおばっていた。

主菜の羊肉のシュワルマやシシカバブ、そしてひよこ豆のファラフェルが出された頃には皆のお腹は一杯で3兄弟はとっくの昔にいびきをかいていた。ザリナが申し訳なさそうに2人に言った。
「本当にすみません。我が家の男衆はお酒に目が無い癖に、飲むと直ぐにつぶれてしまうのです。」
アンドレが笑った。
「それは彼らのせいでは有りません。家のオスカルが人一倍強いだけです。」
アンドレの目に視力は無くてもその時オスカルが彼を睨みつける視線が痛い程感じられた。

「そしてこれは今日のお礼に取っておいて頂けますか。」                      
ザリナが小さなビロードの袋をアンドレに差し出した。
「お礼はもう頂きました。これ以上受け取ることはできません。」
アンドレが断るのも聞かずザリナが言い張った。
「高価な物では有りません。これは『願いの石』と言って縁を担ぐ物です。お守りとして持っていて頂ければ光栄です。」
小袋の中には親指の爪程の小さな琥珀色の石があった。
「この石は 一回だけ願いを叶える力があるのです。」
「でも、他の人がこの石を使ったかもしれない。 この石に願いを叶える力がまだ残っていると、どうして解るのです?」
ザリナが 自信満々の微笑みを見せた。
「それは私を信じて下さいませ。」
アンドレは半信半疑でその石を受け取り厚く礼を言ってキャンプから去った。

そしてジレの胸ポケットにおさめられた「願いの石」はそのまま忘れられていった。





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まとめ【願いの石 (2)】

November 1793 オスカルとアンドレはレバノン人の夫婦がアミンとザリナだと言う事を知った。湖畔に設けら

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