願いの石 (1)

November 1793

「どうした、オスカル?」
馬車のスピードを落としたオスカルに向けてアンドレが尋ねた。
「解らない。ただ、道端に人だかりが有るんだ。様子を見てみよう。」
馬車を止めてオスカルが 村人の一人に話しかけた。
「一体どうしたのですか?」
農民らしい男がアラブ系の男女を指差して言った。黒い髪に黒い肌の男は、胸の中で泣き叫ぶ同じく黒髪に黒い肌の女を宥めようと必死だった。
「いや、この二人は畑仕事の為に日雇いしたレバノン人なのですが、子守りの姉娘が目を離した隙に小さな女の子がいなくなってしまったんです。」 
よく見ると10歳くらいの女の子が母親の横でエプロンの裾を握りしめて泣いていた。

「子供の足だ、そう遠くへは行っていまい。」
畑の向こうに広がっている雑木林を見つめるオスカルが馬車を降りようとしたのを止めてアンドレが言った。
「待て、オスカル。ここは俺に任せてくれないか?おまえは子供達と此処で待っていてくれ。」

アンドレがスゼットを連れて荷馬車を降りた。普段から盲導犬を連れて歩くアンドレを知っている村人達が彼を怪訝そうに見つめた。賢さと勘の良さで視力を補っているアンドレは日常生活では殆ど不自由無かったが、流石に雑木林の中で迷子の子供を見つけるのは無理な事だ。村人達のそんな思いをよそにアンドレがレバノン人の男に話しかけた。
「すみません、何かいなくなった子供の匂いがする物はありませんか?」
姉娘が咄嗟にピンク色の小さな毛布をアンドレに差し出した。それをアンドレがスゼットの鼻先に持って行くとスゼットが興味深げに臭いを嗅いだ。
「良いか、スゼット、探せ!」
するとスゼットは地面の臭いを嗅ぎながらゆっくりと歩き出した。スゼットとアンドレの後ろからは好奇心で一杯の村人達や、子供の父親が後を付いて行く。雑木林を迂回して何度か立ち止まり臭いを嗅いだスゼットは10分程歩いた末にクヌギの木の根もとで子猫を抱き締めて眠っている子供を見つけ出した。仔猫を見つけた子供はそれを追いかけている内に迷子になり疲れきって眠ってしまったのだろう。

子供を抱き上げたアンドレに村人達の歓声と父親が繰り返し礼を言う声に静かな雑木林が沸き上がった。子供を連れて無事に戻って来た一行を見て子供の母親も涙をぽろぽろ零しながらアンドレに礼を言った。そして断りきれなかったアンドレは彼らのキャンプで晩餐に家族で招待される事になってしまった。

「いいじゃないか。私はレバノン料理は未だ食べた事が無いぞ。」
オスカルが上機嫌でアンドレに話しかけた。
「それにしても凄いじゃないか。いつの間にスゼットに人を捜す事を教えたのだ?」
アンドレが微笑んだ。
「セシルはお前に似て好奇心が強く怖いもの知らずだろう?蝶や兎だとか、 興味を惹く物を見つけるとすぐに追いかけてて行ってしまう。だからこんな事の為にとスゼットに、匂いで人を捜す訓練をしていたのさ。うまく役立って良かった。」

二人の間で絵本を読む 子供達を愛おしそうに抱き締めるアンドレを 見つめながら 馬車を駆るオスカルも一人微笑んでいた。 

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Missy

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