Camille (カミーユ)



アンドレはいつもの用にショコラを載せた銀のトレイを片手に主人のドアをノックした。
「アンドレか? 入れ。」
オスカルの声が弾んでいる。2人で過ごす夜のひと時が待ちきれない。並んで長椅子に腰掛けるとお互いの唇を求めあった。
「この懐かしい香りと力強く逞しい胸に気がつかなかったなんて…私は何て鈍感なんだろう!もう私はこの広くて優しい胸の中でなければ生きていけない!」
アンドレは蝶の羽ばたきの様に甘く優しい接吻をオスカルの蒸気した頬からその白く輝く様な首筋に落としていた。その暖かで甘美な刺激がオスカルを酔わせたがアンドレの指が彼女の胸元のボタンにかかった途端にオスカルの肩が硬直するのが解った。 オスカルは止めなかったがアンドレはその手を離して黄金色の髪に口づける。 「さあ...今夜はもう遅い。 おまえも疲れているだろう...休んだ方が良い。」 
手を差し伸べるアンドレに素直に頷いてオスカルは寝台に横になった。 
「おやすみオスカル。」 
アンドレの黒い瞳が切なそうに何かを訴えていたがそれにオスカルは答えてあげることができなかった。

アンドレがそっと部屋を出ていった後オスカルは寝台の中で目を開けたまま苦悩していた。 アンドレへの気持ちに迷いは無い。 彼を確かに愛している...誰よりも激しく。 彼に全てを預けたいのに。今まで女である事をひたすら押さえて生きてきたオスカルには女と男の愛の駆け引きなどわからない。 いくらアンドレを求めていても自分からその鎧を取り去る事は直ぐにはできない。 
「私はなんて意気地なしなんだ! アンドレは私への誓いを守りぬこうとしているのに。 こんな私を許してくれ..もう少しだけ...」

オスカルの部屋を出たアンドレは無意識に厩へ向かっていた。 永い間見つめ続けてきた愛しい人。 決して許されないと諦めていたその唇に触れた今はもうこの高ぶる心を抑えて眠る事はできない。  
「ああオスカル! 俺はもう気が狂いそうだ!」  
アンドレは馬を駆り夜更けの道をパリへと向かった。 オスカルへの誓いを守るために...

******


パリの小さな酒場で一杯飲んだ後、アンドレは裏通りの娼館に足を運んでいた。 そこはオスカルの婚約騒動が起きた頃通いだした場所だが2人の愛が実ってからはもっと頻繁に訪れる様になってしまった。アンドレが薄暗いパーラーに足を踏み入れるといち早く何人かの娼婦が近よってきた。 安い香水と粉の匂いが鼻を突く。アンドレは愛想よく微笑んでいるマダムに一言 
「カミーユ?」
と訪ねると無言でマダムの指差す部屋の奥の方へ歩いて行った。

アンドレの前に佇む女は黒く艶やかな髪に深い緑の瞳で刺す様に彼を見つめて言った。
「あら,また来たの?」
ジプシ−の血が流れているというオリーブ肌の女は未だ年若いが生きる事の苦しみを知りぬいた様な翳りがある。カミーユの後を付いて階段を昇ると突き当たりに彼女の部屋が有った。寝台と小さな鏡台しか無い殺風景な部屋で無造作にドレスを脱ぎながらカミーユが尋ねる。 
「何か飲む?」 
「いいや,何もいらない。」
自分の服を脱ぎ捨てるとアンドレはカミーユを抱いた。その目を閉じる訳ではなく,女を見る事も無く,機械的に動作だけが進む。

別にこの女でなくても良い。ただこの女を選んでしまうのは面倒な会話も何もいらない。ただ俺が必要な物だけをくれるから。そして俺はしっかりとこの目を開けたままこの女を抱こう。眼をつぶればおまえへの欲望を俺の脳裏から引き離す事などできなくなるから。たとえ俺の想像のなかでさえ無垢で気高いおまえを汚したくは無いんだ...

******


又この男が来た。 こんな男前なのに...何だってこんな場末の娼館へくるんだい? ここらの客と違って品がいいし身なりだって上等だし、金払いも良いし...冷たい訳でもなければ乱暴でもない。 もっと良い所でいくらでも遊べるのに。 それにしても本当に性欲を処理するだけの営みね。 私は気楽で良いんだけど...きっとこの人の心の中には触れる事の出来ない愛する女がいるんだろうな...

事を終えるとすぐに男は起き上がった。 
「ねえ...泊まっていってもいいのよ..もう遅いし。」  
「いいや大丈夫さ...金はここに置いておく。 ありがとう。」
振り向きもせずに男はドアに向かった。  
「とても綺麗なんでしょうね...あんたの思い人。」 
ドアに掛けた男の手が一瞬止まった。 嫌だ。 あたしなんだってこんな事聞くんだろう。でもあたしが思った通りのようね。 
「あんたの思い届くと良いね。」 
あたしの言葉にその男は振り向いた。 
「ああ,ありがとう。」 
男は微笑んでくれた。初めて見る男の微笑みは眩しいくらい。 この場所には似合わないほどに。

**********


アンドレはベルサイユへと帰路についていた。
「ああオスカル...俺はこれ以上どこまで自分を抑えられるか解らない...おまえに触れる度におまえとの誓いを破ってしまいそうだよ...」

煌めく星を見つめながらアンドレは深く溜め息をついた。 




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Missy

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