銀の指輪 (4)

October 1789

娼館で貰った硬貨を持ってオスカルは宝石商へ訪れた。店内には高価な金やダイアモンドのアクセサリーから、もっと庶民的なガラス細工や真鍮などのアクセサリーも有った。オスカルが店に入って行くと店主らしい眼鏡の男が愛想よく話しかけて来た。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「はい。これで買える結婚指輪はありますか?」
オスカルがテーブルの上で小さな袋を逆さまにすると、いろいろな硬貨が音を立ててテーブルの上に転がった。それを店主が一つ一つ数えた。
「それでしたら、こちらの銀の指輪はいかがですか?お客様のしている物と良く合います。」
店主の差し出す銀の指輪を手に取って眺めてみた。丁度アンドレがオスカルにくれたものと同じ位の厚みで、内側には何か彫ってあった。
「『Amor Vincit Amnia』、ラテン語で 『愛は全てを征服する。』という意味だな。」
「その通りです。良くご存知ですね。」
「気に入った。これを頂こう!」
「もし、大きさが合わなければ、旦那様とご一緒に来ていただければ直しましょう。」
店主から銀の指輪を入れた小さな箱を受け取ると、オスカルは嬉しそうに家路を急いだ。

************

オスカルが La Petite Chaumière に戻ってくるのを見てアンドレが溜め息を吐いた。此処数週間に渡って昼頃になると何処へとも無く出かけて行くオスカルの事を気にかけていたのだ。何を考えているか解らないオスカルが帰って来るといつも安い香水と煙草の匂いが彼女の服に染み込んでいた。しかし彼女は体調が良く、余りにも上機嫌な為に何も追求せずオスカルが自分の意志で秘密を語るのを待っていたのだ。今日も例外でなく、帰宅したオスカルは満足そうに微笑んでアンドレの胸に飛び込んで来た。

「アンドレ、シャンパンを飲まないか?」
「いいぞ。何が良いんだ? 確か、モエとテタンジェが有る。」
「私が取りに行こう。おまえは此処で待っていろ。たまには私にも妻らしい事をさせてくれ。」
オスカルが何かを言い張る時は到底、企みを持っている。そう言う時には黙って言われる通りにした方が一番だ。

アンドレは厨房に行くと手早くチョコレートを暖めて苺を浸し、苺のチョコレート掛けを作った。苺の入った皿を持って居間に行くと、ソファに座ったオスカルが微笑んでいる。テーブルの上にはシャンパングラスが二つ置いてあった。
「苺のチョコレート掛けか!おいしそうだな。」
「ああ、シャンパンに良く合うだろう?」
オスカルの隣に座ったアンドレはグラスの一つを持ち上げて言った。
「乾杯!」
ぶつけ合ったクリスタルグラスからチンと金属的な音が立った。
「おまえ飲まないのか?」
「勿論、飲むさ。」
オスカルはゆっくりとグラスを傾けてシャンパンを飲みながら、何も言わずただアンドレを見つめている。甘酸っぱいシャンパンの芳香が二人の口一杯に広がって来る。
「うん、美味いな。」
アンドレがグラスを傾けて最後の一口を飲もうとした時、何かシャンパンとは別の物がアンドレの舌に触った。
「何だ?」
口の中から異物を取りだすとそれは銀色に輝く指輪だった。
「おまえの結婚指輪だ。遅くなって済まない。」
言葉の詰まったアンドレがようやく口を開いた。
「有り難う、オスカル。おまえが一生懸命働いて買ってくれた指輪なのだろう?俺は世界一幸せな男だ。」
アンドレの目は涙に潤んでいた。指輪を左手の薬指にはめてみるとそれは丁度良かった。
「アンドレ、こんな事位で泣く奴があるか!それに仕事と言っても大した事じゃない。」
オスカルが娼館での仕事の事を話すと、アンドレが笑いながら答えた。
「それはおまえには最適な仕事だったな。でも、そこまでして指輪など必要なかったんだぞ。俺はおまえがいてくれるだけで嬉しいんだ。」
「指輪は私の為でもあるのだ。その指で輝く指輪がおまえを熱い目で見つめる全ての女に『おまえは私の物だ』と宣言する様に。」
「オスカル?」
「知らなかったのか?私は欲張りだ。おまえの全てが欲しい。おまえの熱い視線も、愛の言葉も、優しい吐息でさえ、全て私の物だ。」

アンドレが苺を摘んでオスカルの口元に持って行った。それをゆっくり噛み締めるオスカルが言った。
「…甘い…」
オスカルの唇に光る苺の汁を舐め上げてアンドレが囁いた。
「おまえの方が甘いよ…」
「今度はおまえの番だ…」
オスカルが苺を摘んでアンドレの口元に運んだ。アンドレが苺をオスカルの指ごと口に入れるとオスカルの指をゆっくりと舐める。二人の吐息が心持ち早くなった。

アンドレが呟いた。

「Amor Vincit Amnia…」

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No title

二人の○○って、苺より甘いんですねっ!(キャ~♪)
この話読んで、なんだか苺パフェが食べたくなりました。チョコレートソースをたっぷりかけたのが。(ダイエット中なのに…。笑)

No title

ぶらね様、コメントありがとうございました。

実は私も スパークリング ワインを飲みながら妄想してこのお話を書きました。

二人の...苺より甘いと思います! (笑)

昔、Los Angels のオペラハウスでシャンパンと苺のチョコレート掛けをセットで買えたので、オペラのインターミッションの度に頂いておりました... これは 超ハマりますよ! (私だけかしら?なんせお酒好きだし、チョコ大好き!)

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