銀の指輪 (3)

October 1789

オスカルはクローゼットの中の自分の所持品を見回して溜め息を吐いた。ごく普通の装身具の他にめぼしい物は無い。ジャルジェ家を一銭も持たずに出て来たオスカルは金目の物は何一つ持っていなかった。こうなったら街で仕事を探すしかない。

その日は天気も良く、アンドレには気晴らしに馬に乗ると言って街に向かった。アンドレはオスカルを一人で行かせたくなかった様だが、この頃体調も大分良い為、止めはしなかった。

しかし街には着いた物の、軍人としてしか働いた事のないオスカルに仕事が出来るような店は一つもなかった。あても無く歩き回った末、オスカルはある建物の前で立ち止まった。それは南部の海岸沿いの建物には珍しく、窓には厚いカーテンがかかっていて中の様子がまるで見えない。入り口には看板の一つも無い代りに求人募集の張り紙があった。
「当たって砕けろ!」
オスカルは覚悟を決めると扉を開けて中へ入っていった。

「外で求人募集の張り紙を見たのですが…」
オスカルが室内を見回すとそこは何とも違和感の隠せない場所だった。昼でも薄暗い室内では派手に着飾った女達が煙草の煙と強い香水の匂いの中でひしめき合っている。その時、いくら世間知らずのオスカルでも自分が娼館に紛れ込んでしまった事にようやく気がついた。

オスカルが逆戻りして外に出ようとした時、奥の方から声が聞こえて中年の女が寄って来た。年はオスカルの母位であろうか。なかなか整った顔立ちのマダムらしい女は 娼婦とは対照的な落ち着いた装いで黒髪を緩く結い上げていた。賢そうな灰色の瞳はオスカルを値踏みする様にまじまじと見つめた。
「どれどれ。今探しているのはお客さんに酒を運ぶ給仕人だけど、あんた経験はあるのかい?」
「いいや。しかし酒には詳しいし、何でも覚えは早い方だが。」
「あんた程の上玉なら客を取った方が稼ぎになるんだけどね。」
「それは残念ながらお断りだ。男は生涯一人と誓ったのでな。」
「でも経験が無いのなら給仕として雇う訳にはいかないよ。」
「それではこうしよう。今日の所は私をただで働かせてくれ。もし私の働きが気に入ったら雇ってくれれば良い。」
「なかなか面白いことを言うね。よし解った。やってみな。ただし女物の服に着替えてもらうよ。それとあんた、女言葉で喋れるかい?」
マダムに導かれてオスカルは着替室に向かった。

************

オスカルが着せられたのは黒いお仕着せだった。金髪を後ろで束ねたオスカルはトレイを片手に客の注文を取ったり酒を運んだりした。幸い未だ時間は早く客は少なく仕事を習うのには丁度良い。

その時、酔っぱらった客の一人が未だ年若い娼婦に絡んでいる声が聞こえて来た。
「何だ、おまえ俺の酒が飲めねえっていうのか?」
「旦那、勘弁して。あたしお酒はだめなの!」
「良いじゃないか、一杯位!」
男が無理矢理グラスを女の口元に運んだ。見るに見かねたオスカルが男の腕を掴んだ。
「おい、嫌がっているじゃないか。いい加減にしろ。」
「何だ、おまえは?…ふん、なかなか良い女じゃないか。よし、おまえが代りに相手をしろ。俺が可愛がってやる!」
男がオスカルの方に手を伸ばした。
「無礼者!」
オスカルが男の腕を捻り上げた。男の手からグラスがすっ飛んで床の上で砕けた。
「いてて…畜生このアマ!」
掴み掛かろうとした男をオスカルはいとも簡単に躱して投げ飛ばした。男は何が起きたかも解らぬまま床の上に仰向けにひっくり返って目を白黒している。
「紳士として振る舞えないのなら、とっとと出て行け!」
男の上着の首筋を掴んだオスカルはそのまま男を娼館の外に引きずり出した。

オスカルが戻って来ると娼婦の間から歓声が揚がった。
「あんた、すごいじゃない!あの男あんたの2倍は有ったよ!」
「あの酒癖の悪い奴を懲らしめてくれてありがとう!胸がすっとしたよ!」
「たいした事じゃない。タイミングとコツさえ覚えればあんな酔っぱらいの一人や二人、子供だって倒せる。」

マダムが難しい顔をしてオスカルの方にやって来た。
「やっぱりあんたに給仕の仕事は断るよ。その代わり他の仕事はどうだい?」
「グラスの事は済まなかった。でも私は客は取らんと言ったはずだ!」
「何を早とちりしているんだよ。あんたが今やったような護身術を家の娘達に教えてあげて欲しいのさ。今までも酔っぱらいに絡まれて怪我させられたり、嫌な事をされたりする事があってね。」
「そう言う仕事ならお手の物だ。引き受けよう。」
 
**************

それからオスカルは何度か昼間の客の少ない時間帯にそこへ訪れて娼婦に護身術を教えた。彼女が訪れる度に女達が嬉しそうに自慢話を聞かせてくれた。

「あんたに教わった通りに、酔っぱらいの親指を掴んで逆に捻ったら簡単に手を振り解けたよ!ありがとう!」

「あたいは後ろから抱きすくめられたけど、靴の踵で思い切り足を踏んずけて, みぞおちに肘鉄砲を食らわせてやった! その男小半時も立てなかったんだよ。」

「君達は良い生徒だった。これで一応一通り教えてある。後は個人的に練習していざという時に体が自然と動く様にしておく事だ。」
オスカルが満足そうに言った。
「ありがとうよ。これはあんたの報酬だ。」
マダムが硬貨をいくつかオスカルに渡した。そして娼婦の一人が硬貨の入った小さな袋をオスカルに渡した。
「これはあたい達から。お礼の気持ちとして受け取っておくれよ。」

オスカルは礼を言って娼館を後にした。

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Private comment

娼館で?!

え~娼館でアルバイト!でびっくりしましたが成る程、護身術ですか~
さすがにMissyさんは詳しいですね。
小指を捻ると…聞いたことあるけど大男でもひっくり返るなんて凄い。
いつの世でも娼婦は命の危険はありますからオスカル様は用心棒より役立ったみたいですね

キュートで強いイメージのオスカル様ですね。
まるで『NCIS』のジヴァという感じです。黒髪で黒い瞳だけど。

Re: 娼館で?!

は〜いベルばら二次創作サイトは沢山あっても娼館でアルバイトなんて変な話を書くのって 私だけでしょうね。
あれ考えてみたら小指じゃなくて親指でした。なんせ軍人やっていたのは20年前なのでもう忘れてしまいました。直しておきます。(反省)

親指でしたか!

関節技?アメリカの刑事ドラマで女性刑事が使ったのをで観たような。
そういったエピが入るのもいいわ~
娼館に行ったアンドレを鬼の形相で待つオスカルのSSはどこか読んだような気がします。娼館はよくSSで出ますし、これは問題はないと思うけど。
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Missy

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はじめまして!Missy です。日本語はまだまだ未熟ですが,ここはそんな私の妄想で暴走している AO主義のベルばら二次創作サイトです。
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