二人の旅立ち  (4)

「どうしたアンドレ?」
何か言おうとしたアンドレは又、口をつぐんだ。
「いや,何でもない。」
正直言ってアンドレは嬉しかった。今まで食材になど指一本触れた事の無かったお嬢様育ちのオスカルが彼の為にうまれて初めて作ってくれた食事である。結果はどうあれ、アンドレは最愛の人の心使いに胸が一杯だった。
「ありがとうオスカル。でも小川の向こうではもう、狩りをしないでくれ。」
「ああ,領主の許しも無く獲物を捕ったとは私もうっかりしていた。我が家の領地を確かめておくべきだった。これはお詫びをしなくてはならないな。」
「それは俺に任せてくれ。それよりお腹がすいているだろう? 軽く何か食べた方が良い。おまえの鳥は未だ焼けていないんだ。」
アンドレは手早くリンゴとカマンベールチーズのスライスを小皿に盛り,オスカルに食べさせた。
「なかなか良いカルヴァドスが有るんだ。」
アンドレがカルヴァドスのボトルを開けると甘酸っぱい芳香が漂った。
「うん,良い香りだ。頂こう。」
オスカルが前菜とカルヴァドスを楽しんでいるのを満足げに眺めていたアンドレは時を見計らってオスカルに尋ねた。
「おまえ疲れているだろう?少し休んだらどうだ?」
オスカルの額に軽く手を添えた。
「少し熱っぽいぞ。横になった方が良い。」
オスカルが不思議そうに自分の額に手を当てた。
「熱は無いと思うのだが…?」
「いや,ある。食事の支度が出来るまで少し寝ていろ。いいな?」
アンドレはオスカルをそっと抱き上げると寝室まで連れて行った。 久しぶりに歩きまわった為か、確かに疲れたようだ。アンドレの胸に抱かれて運ばれるオスカルは心地よく睡魔に襲われる。そっとオスカルを寝台に寝かせると静かに窓を閉めた。

************

厨房に駆け戻ったアンドレは大急ぎで竃を開けた。火葬された鶏を今はその棺となった鍋ごと取り出した。これは納屋の裏に隠して後でどこかに埋めよう。竃には香りの良いヒッコリーの薪をくべて焦げ臭さが取れるまで燃やしておく。財布から1リーブル硬貨をいくつか掴むと屋敷を出て丘を下った。小川を超えた畑の向こうにある農家に住む セルジュとポーレット・クレモンを訪ねた。隣人であるこの年配の夫婦は二月前にこの土地を視察に来た時以来世話になっている。二人が引っ越してくるまでの間セルジュとポーレットが屋敷の管理をしてくれていて,オスカルの事も聞いて知っていた。アンドレがオスカルの手でキジ狩りの犠牲になった鶏の事を話すと快く笑った。
「なあに,鶏の一羽や二羽、いつでも持ってお行き。ただし,猟銃は勘弁しておくれよ。驚いた鶏が卵を産まなくなっちまったら困る。」
「勿論です。これは少しですけれど…」
アンドレが硬貨をポーレットに渡した。
「たかが鶏一羽でこんなに沢山もらう訳には行かないよ!」
「実はもう一羽頂いてもいいですか?」
「ああ,厨房に一羽、丁度羽をむしって調理するだけのがあるけどそれを持っていくかい? あんたは急ぎの様だしね。」
「本当ですか?助かります!」
鶏をもらったアンドレはセルジュとポーレットに礼を言って屋敷へと戻っていった。

***********

ヒッコリーの薪のお陰で竃の焦げ臭さは抜けていた。手慣れた包丁さばきで鶏肉を骨から削ぐと塩とレモンペパーをもみ込んで小鍋に入れた。アンドレはサヴニエールの白ワインを開けるとグラスにワインを注いだ。そしてグラスのワインをパセリと一緒に鶏肉に振りかけると残りをラッパ飲みした。これなら20分で出来る。後は付け合わせの野菜とジャガイモで何とかなる。アンドレは残りのサヴニエールを飲み干すと溜め息を吐いた。

***********

丁度 支度が出来た頃、人の気配がしてオスカルが二階から下りて来た。
「うん,いいにおいだな。」
「疲れは取れたか? 今、起こそうと思っていたところだ。」
テーブルの上には鶏肉料理から湯気が立っていて、ほのかな白ワインの香りが食欲をそそる。
「これがあのキジか?」
「そうだよ。ただしこれはキジではなく鶏だ。」
「おまえはまるで魔術師だ。うん、とても美味しい。」
「それも皆、おまえのお陰だよ。ありがとうオスカル。」
アンドレの目の前に喜びを隠せないオスカルの蒼い瞳が笑っている。アンドレは思った。この微笑みを見る為なら俺は何でもしよう。オスカルを抱き締めるアンドレに甘やかな薔薇の香りが鼻をくすぐる。この甘やかな香りの中で俺はとろけてしまいそうだ。
「この位、いつでもまかせろ。」
オスカルが得意そうに答えた。

「乾杯しよう。俺たちの新しい暮らしを祝って。」
アンドレが二本目のサヴニエールを開けて言った。

乾杯する二人の周りで幸せな La Petite Chaumière の夜が更けていった。



実はこのお話は (3)で終わらせたつもりでしたが ayu様とえいこ様の 「それからどうなったの〜?」という質問に答えるべく書きました! I hope you like it!

 Missy 

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