二人の旅立ち  (3)

「アンドレ…」
寝返りを打って延ばした腕は空を切ってシーツに触れた。
「オスカル,もう起きたのか? もう少し横になっていろ。今、朝食を持って来てやる。」
もう身支度を整えたアンドレが寝室の窓を開けた。白いカーテンの間から朝の光と潮の匂いのする風が入ってきた。
「そうだ。私は本当にマダム・グランディエとして此処にいるんだ。」
二人で歩いて来た道のりは長く、苦しい事もあったけれど,今はもう思い出にすぎない。 回り道もしたけれど今こうして此処にいるのは自分と最愛の男だけなのだから。いつまでもこうして二人で海を見ながら生きていきたいと、オスカルは思った。 そうこうしているうちにアンドレが 戻ってきた。木のトレイの上にはリネンのナプキンが敷かれ、小さな花瓶に一輪の白薔薇が飾られている。焼きたてのパンと淹れたてのコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。
「卵も肉も無かったから今朝は燻製のソーセージでがまんしてくれ。幸い果樹園にオレンジがあったからジュースは新鮮だぞ。今日俺が買い出しにいくから、今夜からは好きな物を食べさせてやる。」
寝台の上で未だ暖かいパンをほおばりながらオスカルが満足そうに答えた。
「うん、 おいしいぞ。おまえが作る物はなんでも最高だ。」
「よかった!ゆっくり食べて、もう少し休むと良いよ。おまえはまだ疲れているんだろう?おまえが休んでいるうちに買い物を済ませてくるよ。」
ナプキンの角でオスカルの唇についたパンの粉を払い落とすと、頬に口づけした。
「トレイはそこに置いておけ。俺が後でかたずける。じゃ行ってくる。」
「解った。アンドレ…」
「何だ,オスカル?」
「…いいや,何でも無い。」
「…俺も愛しているよ!」

オスカルが答える前にアンドレが階段を駆け下りて出て行った。

***********

朝食を済ませたオスカルは,暫く休んでいたが 退屈しのぎに屋敷の中を探検する事にした。クローゼットの中から白い木綿のシャツとブルーのキュロットを選ぶとそれに着替えた。二階は皆寝室で、なかでも一番北側にある小さな使用人の部屋は長い事使われていなかった様で物置代わりになっていた。そこでオスカルはいくつかの銃と火薬に銃弾を見つけた。
「しめた、これで狩りができる。うまく兎かキジでも獲れれば夕食に丁度いい。」
幸いと銃は手入れがしてある様で,その内のマスケット銃を選んで外に出た。海とは反対方向に丘を下るとそこには果樹園があり,小川が流れていた。ブーツのまま水に入ると川は思ったよりも浅く簡単に渡る事が出来た。向こう岸は畑が広がっていてそこにキジらしい鳥をみつけた。
「やけに尾の短いキジだな。白いのもいるぞ。」
オスカルはマスケット銃に火薬と弾を込めてゆっくり狙いを定めた。息をとめて引き金を引くと、一番太った白いキジの羽が舞い上がった。他のキジは大騒ぎでいろいろな方向に走っていく。
大満足で白いキジを拾うとオスカルは屋敷に戻っていった。

************

「アンドレは未だか?」
テーブルの上の白いキジを見つめてオスカルが呟いた。その時オスカルに一つの考えがうかんだ。
「よし,このキジは私が料理しよう!私の料理でアンドレをおどろかせてやるんだ!」
思いつくと行動の早いオスカルだ。先ずは竃に火をつけた。軍の野営で火を焚く事だけはやった事がある。十分に火がつき、竃が暖かくなると戸棚の上にあった大きな鍋にキジをそのまま押し込むと竃の中に入れた。
「味付けはアンドレに任そう。なあに,あいつの事だ,上手くやってくれるだろう。」
オスカルは満足そうに言うと居間の長椅子に腰掛け、知らぬうちに眠ってしまった。 

*************

「思ったより時間がかかってしまったな。可哀想に、オスカルもきっと腹をすかせているだろうな…」
荷馬車で屋敷に向かうアンドレは丘の上に見えて来た La Petite Chaumière の煙突から黒い煙が立ち昇っているのを見て嫌な予感を隠せなかった。10月初旬の Vallée de Sérénité は未だ温暖で暖炉は必要ない。とすると、煙は竃からに違いない。
「オスカル,おまえ何をやったんだ!」

アンドレが屋敷に着くと居間でうたた寝していたオスカルが目を覚ましてうれしそうに言った。
「アンドレ!今日は、私が夕食を作っているのだ。」
アンドレは動揺を笑顔で隠してオスカルに優しく聞いた。
「夕食って一体何を作っているんだ?」
「小川の向こうの畑で白いキジを捕った。」
得意そうなオスカルの肩を抱き締めるアンドレが囁いた。
「小川の向こう?それはまずいぞ。俺たちの土地は小川のこちら側までだ。そこから先は近所の農家の土地だ….白いキジだって??」
その時、厨房のテーブルの上に白い鶏の羽が落ちているのが見えた。
羽を拾い上げたアンドレがオスカルに尋ねた。
「これが『キジ』の羽?」
「ああそうだ。そんなに羽が見たければ、残りは竃の中にあるぞ。」
「なんだって?」
アンドレがあわてて竃を開けると黒い煙が厨房に立ちこめた。真っ黒に焦げた鍋の中には羽ごと黒く焦げた近所の農家のものであるらしい鶏が丸ごと(頭や臓物もそのままで)入っていた。

「後はおまえに任すぞ。」

オスカルが涼しい顔でアンドレに言った。


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