涙の行方 (2)

年月が経ち、子供たちは成長していった。アンドレが 馬の世話をしていると、いつもの様に士官学校から帰って来たオスカルが馬車から飛び降りた。アンドレを見るなり、彼の腕の中に飛び込んで来たオスカルは無言で 彼の胸に顔を埋めた。オスカルの熱い涙がシャツを濡らす。
「どうした?なにがあったんだい?」
「上級組の奴らだ。女だと思って馬鹿にしやがって…叩きのめしてやった!」
オスカルの頬には擦り傷が有り又喧嘩をしたのが手に取る様に見える。
「オスカル!何て言葉使いだ!おばあちゃんに怒られるぞ!」
「かまうもんか!」
悔しそうにアンドレのシャツを握りしめるオスカルの背中をアンドレが優しく擦った。
「それで肝心の校内剣術大会の方はどうなった?」
「勿論優勝したさ。」
下級生の、しかも女であるオスカルに剣で負けた上級生達が悔しさ紛れに喧嘩をふっかけて来たのは言うまでもない。
「そうだろうと思ったよ!」
「それだけじゃない。」
「何だ?」
「今年の大会は父上の剣を使ったんだ!」
アンドレの顔が嬉しそうに綻んでオスカルまでつられて笑ってしまった。
「やったあ!オスカル!旦那様にお知らせしないと…」
「もういいんだ。」
「えっ、何故? あんなにがんばって訓練していたのに。」
「昔は、父上に認めてもらう事だけが目標だったけど、今ではその必要がない事が解ったんだ。それに私を本当に理解してくれるお前が喜んでくれるだけで嬉しい。」
オスカルが涙を拭って言った。
「アンドレ、いくぞ!屋敷まで競争だ!」
「よし!」
二人の笑い声が青い空の下で響き渡った。

*********

オスカルは彼女を包む様に寝台の上にすわっているアンドレの腕の中で目を覚ました。そこはパリの病院の一室。…そうだ、又咳血して咳が止まらなくて…そのまま力が尽きる様に眠りに落ちてしまったらしい。 
「目が覚めたのか?」
傷ついた左腕を庇いながらそっとオスカルの額から汗を拭うアンドレが話しかけた。自分こそ銃創の傷が痛むだろうに。
オスカルの蒼い瞳に涙が潤む。
「死ぬのは恐れてはいない。でもお前と離れる事だけが怖いんだ。」
「オスカル、そんな弱気でどうする?言っただろう?俺たちは海辺で暮らすんだ。すぐに良くなるさ。」
アンドレがオスカルを抱き締めた。包帯に巻かれただけのアンドレの素肌の胸からトクン、トクンと力強い心臓の音が聞こえてくる。その音がいい様に無く懐かしい。
「今、子供の頃の夢を見ていた。私は、本当は泣き虫だ。永い事おまえの胸の中だけで泣いて来た。」
氷の華と呼ばれたオスカルがいかに自分自身に厳しかったかはアンドレが一番良く知っていた。そしてどこにもやりようの無い悲しみや苦しみをアンドレの胸の中だけでは自由にとき放つ事が出来た事も。
「アンドレ、おまえの心は重たくないのか?おまえはいつも私の涙の重みを支えて来た。」
「いいや、おまえの涙はちっとも重くなかった。おまえが俺を頼ってくれていたのが嬉しかったな。枯れ果てた大地を潤す雨の様に、おまえに役立てる事だけが俺の生きている証になった。おまえは俺の渇きを癒す命の水だ。」

「ありがとう、アンドレ。おまえがいる限り、わたしは大丈夫だ。」
「ああ、いつまでもこうして二人で生きていこう。」

オスカルの瞳から涙はいつの間にか消えていて、代わりに小さな希望の光がそこにあった。





あとがき:

このお話を書いている時、アメリカのことわざを思い浮かべました。

“Diamonds Are Just Lumps Of Coal That Stuck It Out“ (ダイアモンドは頑張り通しただけの炭だ。)

私もこのことわざが好きです。ダイアモンドはもとはと言えば炭素が熱と圧力で永い時間をかけて変化した物ですよね。

オスカルとアンドレの絆がとても強く二人の愛が美しいのは、やはり長い年月をかけて悲しみや苦しみをも分かち合いながら築いて来たからだと思うのです。

ちなみにダイアモンドの石言葉は「永遠の絆・純潔・不屈」。ふたりにぴったりですよね〜!

Missy

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Author:Missy
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