心の糧 - Something to believe in -

注:暴力有りです!

「本当にいいのか?今からでもお前の名前を夜勤の予定表から外す事もできる。」
「だめだ。そんな事をしたら えこひいきだと思われて,兵士達の反感を買うだけだ。」
「しかしお前はもとより兵としてでは無く、私の側近として此処に着た。第一、軍亊訓練など受けた事もないのだろう?」
「何とかなるさ。それよりもお前は早く屋敷へ帰れ。いいな?」
アンドレは馬車の扉を閉めると、御者に合図をした。心配そうなオスカルへ馬車の窓越しに目配せをすると、馬車が勢い良く走り去るのを確かめてから兵舎へとむかった。

アンドレはその時,木陰で彼の後ろ姿を見つめていた男達に気がついてはいなかった。

*******

「アラン、あの男女、今帰って行ったぜ。黒髪の腰巾着野郎が珍しく一人で兵舎に残っている。それにしてもあの二人、只の仲じゃなさそうだ。」
「そう言えば,あいつがあの女にため口を使うのを聞いたぜ。士官に対等な言葉を使う兵卒なんているか?」
「ひょっとして、あいつがあの女の愛人?」
「まさか!大貴族の令嬢と兵卒じゃ差が有りすぎる。」
皆が口々に喋った。アランがそれを制する様に言った。
「いいや,ありえるぞ。貴族の女が使用人や付き人の男を慰み者にするなんて珍しい事じゃねえ。」
読み書きも殆ど出来ない連中の中で唯一の士官学校出で、リーダー格のアランだ。彼が言えば、皆が真に受けてしまう。 男達が、納得した様に頷いた。
「良いか,此の事は黙っていろよ。あの男を上手く使えるかもしれねえ。」
「アラン,何か考えが有るのか?」
「ああ,上手く行けば此処数日中にあの忌まわしい女隊長を追い出せるって筋書きさ!」
アランが皆の耳に計画を囁いた。

********

その夜アンドレはラサールと二人で兵舎内の見回りに当たっていた。それまで無口だったラサールが突然叫んだ。
「アンドレ,見ろ!あの物資倉庫の窓に灯りが灯っている。」
「武器目当ての賊かもしれない。ラサール,お前は当直の士官に連絡をしてくれ。俺は様子を見てくる。」
「解った!」
ラサールが衞兵隊司令部の方に走り去るのを見送ったアンドレは物資倉庫にそっと近づいた。窓の外から倉庫を覗いた時,誰かが後ろから銃床で思い切りアンドレの頭を殴りつけた。そして突然灯りを消した様にアンドレの目の前が暗くなった。 

*********

誰かが呼ぶ声に目を覚ましたアンドレは自分が上半身裸で両腕を広げた状態で倉庫の二本の柱の間に縛り付けられていたのに気がついた。
「やっとお目覚めか。」
「おまえは確かアランと言ったな?」
「なかなか覚えがいい様だな。ところでお前は読み書きが出来るのか?」
「もちろん。フランス語だけではなく、ラテン語,英語,そしてドイツ語も一通りな。」
「ほう、ただの兵卒にしては、なかなか 学があるのだな。」
「俺の教養の話をする為なら何も縛り上げる事は無いだろう。お前の目的は何だ?」
アランが鼻で笑った。
「お前は,話が早いな。気にいったぞ。なに,此の手紙にお前の署名を頂ければそれで良い。」
アランが突きつけた手紙はアンドレがオスカルと愛人関係である事を認めたものだった。
「そんな嘘八百並べた物に俺の署名が出来るか。それにしても一体どういうつもりだ?」
「なあに、これをブイエの爺が読んだら破廉恥な愛人連れの女隊長を首にする事は、間違い無しだ。最もその前に脳卒中で倒れなければの話だが。」
「断る。」
「減らず口が叩けるのは今の内だぜ。痛い目に会う前に署名しろ。なあに,お前程の色男なら、いくらだって紐にしてくれる女に事欠かないだろう。何もわざわざ可愛げのない男女じゃなくてもな。」
「話すだけ無駄だ。それに今頃ラサールが当直の士官を連れて戻って来る頃だ。俺がいなければ倉庫の中を探しにくるだろう。」
アランが笑い出した。
「あいにくだったな。」
その時倉庫の闇の中から歩み寄る人影が視覚の端から目にはいった。

それはラサールだった。アンドレは肩を落として頭を垂れた。

「仕方が無い。何処まで強情を張れるか見せてもらおう。ラサール!」
馬鞭を握ったラサールが進み出た。
「良いか,服で隠れる場所だけだ。いいな?」
「ああ,まかせろ。」
風を切って打ち下ろされた鞭がアンドレの背中に緋色の線を残した。打たれる度に広がっていく筋肉をちぎるような痛みを堪えようと、アンドレは唇を噛み締める。見る見る内に腫れた皮膚が裂け、血が滲んだ。強く噛み締めた唇が切れて一筋の血がアンドレのあごに向けてしたたり落ちる。

「さて,もう一度聞く。署名する気になったか?」
「断る。いくら聞いても同じだ。」
「しぶとい奴だな。たかが衞兵隊隊長の座ではないか。 あの女の父親は将軍様だろう。此処を止めさせられても、それなりの部署をあてがってくれるだろうが。」
「お前らは何も解っていない。将軍のいいなりに成る位ならオスカルはこんな所には来るまい。」
「黙れ。さっさと署名さえすれば逃がしてやると言っているんだ!」
「何を言っても無駄だ。オスカルの心を乱すものや、オスカルの名を汚すものを遠ざける事ができるのなら、この肉体の痛みなんて、どうでも良い事だ。」
「たかが貴族女の為にお前はどうしてそこまでするんだ?」

「悪口はもう聞き飽きた。悔しかったらお前らも何かに命を懸けてみろ!」
アンドレはぎらぎらと燃えるような瞳でアランを睨んだ。普段穏やかなアンドレの意外な面を見てアランは当惑した。 …どうだ,思い知ったか?俺はオスカルの為にだけ生きているのだから… アンドレは心の中で呟き、そのまま気を失った。

「俺もう嫌だよ,アラン。」
ラサールが弱音を吐いた。
「俺、こんな優男の事だ、鞭の一振りで弱音を吐くとばかり思ったんだ。」
アンドレの血にまみれた背中を見てラサールが泣きそうな顔をした。
アランもそのつもりだったのだ。脅すだけで済むと思っていた。アンドレの態度に退くに退けなくなってしまった。こんなはずじゃなかった。
「もう良い。縄をといてやれ。」
アランとラサールは気を失ったアンドレを担いで倉庫を出た。
「…お前には負けたよ。」
アンドレの背中に囁いた。

**********

アンドレは兵舎の寝台で目を覚ました。もう朝日が昇っていて彼の夜勤はとっくに終わっている。そろそろオスカルが出勤する頃だろう。起きようとした時、背中に鋭い痛みが走って顔を歪めた。しかしアンドレの背中にはきちんと包帯が巻かれていて消毒薬と痛み止めの軟膏の匂いがほのかに漂っている。枕元には4つにちぎった紙切れが申し訳なさそうに置いてあった。それはアンドレが署名を拒否したブイエ将軍宛の手紙だった。そっと軍服に腕を通すと背中は焼ける様に熱い。アンドレは燭台の炎で手紙を跡形無く焼き捨てた。

**********

暫くすると,ゆっくり扉が開き,ラサールが入って来た。アンドレが起きているのを見ると寝台の前に立ちすくんで頭を下げた。
「ごめん。こんなはずじゃなかったんだ。ただ、脅かすつもりだったんだ。」
「ああ,解っているよ。気にするな。」
「アランと相談したんだけど、お前の傷が治るまで俺たちが夜勤を代わるよ。」
「それは助かる。」
「本当にすまねえ。」
「もう,言うな。」
「それで…お前、此の事を隊長に言うのか?」
「馬鹿。言う訳無いだろう。」
それだけ言うとアンドレは 立ちすくんでいるラサールを後にしてオスカルの待つ司令官室へと向かった。
 
************

その頃夜勤明けのアランは酒瓶を抱えてセーヌ川の畔に座って小石を投げていた。いくら飲んでも昨夜のアンドレの事が頭から離れない。血だらけで痛みを堪えてまで,あの貴族女を庇うのは何故だ? あの女に惚れているのか?いいや,二人の結びつきはもっと深く,強いような気がする。アンドレの言葉が木霊の様に頭の中に鳴り響く。
「悔しかったらお前らも何かに命を懸けてみろ!」
今まで俺に命を懸けるものなどあっただろうか? アランはもう一つ石を投げた。彼の答えは 「Non」だった。

「面白くねえ。」

アランは空の酒瓶をセーヌ川に投げ捨てて呟いた。 

 

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