A visitor (訪問者)

男は病院の入り口に立つと、急がしそうに動き回る看護婦の一人に声をかけた。
「…患者を捜しているのですが…」
男はごく普通の平民の装いをしていたが、それが偽りの姿だと言う事は一目瞭然だった。手入れの行き届いた爪、みごとに整えられた茶褐色の頭髪、 そして何よりも 上品な物腰が男の高貴な身分を隠せなかった。

「残念ながらマドモアゼル・ジャルジェは此処にはおりません。」
患者の記録を調べた看護婦が答えた。
「もう一度調べて頂けますか? 見事な金髪で,背の高い男装の麗人は稀なはず。」
男は1リーブルコインを看護婦の掌にそっと載せた。
「ああ,その方なら心当たりがあります。こちらへ…」

看護婦は男を中庭に面した,静かな小部屋に案内した。看護婦の控えめなノックに、
「どうぞ。」
と一言だけ言葉が返され、開けた扉の向こうにその人はいた。

窓辺の寝台の上でクッションにもたれ窓の外を眺めていたのは紛れもなくオスカルであった。
「オスカル嬢。」
オスカルはゆっくりと振り向いた。
「…ジェローデルか…」
「私の声を覚えていて下さったのですか?」
「いや…開けても暮れても,私をオスカル嬢と呼ぶのはお前一人だけだ。」
ジェローデルが深々とかぶっていたトリコーネの帽子を脱ぐと心配そうな深緑の瞳がオスカルを見つめていた。
「貴方の事が余りにも心配で,こうして探しに参りました。」
「ならば,目的は達成した。早く帰った方が良い。お前が平民では無い事は,誰にでも解る。」
「私の事よりマドモアゼル、あなたは? お怪我の方はどうなのですか?」
「怪我はしていない。」
「では、何故…?」

暫しの沈黙の後オスカルが 答えた。
「私が此処にいるのは胸の病を患っているから…」
ジェローデルの体が、ぐらりと揺れて思わず壁に両手を押し付け、体を支えた。
「おお,何と言う事だ!」
ジェローデルは寝台の横に跪いてオスカルの手を取った。
「マドモアゼル、お願いです。私と一緒に来て下さい。兄上に頼んで南の領地に屋敷を用意しましょう。私が必ず貴方を治してみせます。」

「何を言っているんだ。お前の近衛隊長としての任務はどうする?」
「この際任務なんてどうでも良い! 貴方を力ずくでも、連れて行きます!。」
ジェローデルがオスカルの腕を掴み引き寄せた。
「は…放せ!」
ジェローデルはオスカルを軽々と抱き上げた。オスカルは、ばたばたと足で蹴って抵抗したがびくともしない。
「さあ,参りましょう。馬車を待たせてあります。」
どんなに抵抗しても逃れられない事が解るとオスカルは初めて深く息を吐くとジェローデルを見上げた。その蒼い瞳には涙が溢れていた。
「お願いだ、ジェローデル。私を下ろして…」
「マドモアゼル?」
初めて見たオスカルの涙に動揺したジェローデルはオスカルを寝台の上にそっと下ろした。

丁度その頃、オスカルの用事で革命本部へ出かけていたアンドレが病院に帰り着いた所だった。
「あら,ムッシュウ・グランディエ。奥様にお客様がいらしていますよ。」
「オスカルに客だって?」
「ええ、見た事無い、上品そうなお方でした。」
アンドレは胸騒ぎを隠せず、病室に向かって走り出した。

アンドレが病室の扉の前に付いた時、中から男の声が聞こえて来た。その声の主は間違いなくジェローデル大佐、一度はオスカルの婚約者だった男。ドアノブに延ばしたアンドレの手が凍り付いた様にその場に釘ずけになった。

「マドモアゼル?」
「お前はいつだったか,私に聞いたな。『アンドレ・グランディエを愛しているのですか?』と…」
ジェローデルは何も答えずオスカルを見つめた。
「今なら、答える事が出来る。私の答えは『Oui』だ。私はアンドレ・グランディエを愛している。この私の命以上に。」
「オスカル嬢…」
「アンドレ無しで生きるよりはアンドレの腕の中で死にたい。それが私の気持ちだ。」
静かに言い切ったオスカルの言葉に迷いは無かった。

重苦しい沈黙を破る様にノックの音がして,アンドレの声が扉の外から聞こえて来た。
「オスカル, 起きているか?」
静かに開いた扉の向こうからアンドレの何食わぬ顔が現れ,ジェローデルの姿を見て驚いた表情を見せた。

「ジェローデル大佐。」
「ああ,見舞いに来てくれたのだ。大佐を馬車まで見送ってもらえるか?」
「ああ、もちろんだ。」

ジェローデルは何も言わずオスカルの手の甲に口づけると病室を出た。二人の男達は無言で馬車止めまで歩いた。馬車止めまで着た時、やっと沈黙を破る様にジェローデルがアンドレに尋ねた。
「オスカル嬢の様態は?」
「健康管理を正しくして,気長に養生すれば必ず治ります。オスカルにもう少し体力が出てきたら、空気の良い所につれていきます。」
「本当にお前にオスカル嬢の世話が出来るのか?」
「はい。この命に替えても。」

「そうか…」
ジェローデルは何も言わず馬車に乗り込み、目を伏せた。


「一途な従僕が無垢の白薔薇を手折ったか…」

吐き捨てる様に呟いた。

****************

アンドレの胸の中でオスカルが囁いた。
「お前、いつから話を聞いていたんだ?」
「いいや、何も聞いていない。丁度帰って来た所だったんだ。」
「嘘をつけ。」

「…オスカル…」
「何だ?」
「ありがとう。俺もお前を愛している。この命以上に。」
「やっぱり聞いていたんじゃないか!」

顔を赤らめたオスカルが枕でアンドレの頭を叩いた。

Post a comment

Private comment

sidetitleProfilesidetitle

Missy

Author:Missy
はじめまして!Missy です。日本語はまだまだ未熟ですが,ここはそんな私の妄想で暴走している AO主義のベルばら二次創作サイトです。
Please Enter at your own risk!

sidetitleMissy's Break Roomsidetitle
This is a message board for my guests!
sidetitleLinksidetitle
sidetitleLatest journalssidetitle
sidetitleLatest commentssidetitle
sidetitleLatest trackbackssidetitle
sidetitleCategorysidetitle
sidetitleMonthly archivesidetitle
sidetitleYou are the visitor number:sidetitle
sidetitleCurrent Visitorsidetitle
sidetitleSearch formsidetitle
sidetitleFriend request formsidetitle

Want to be friends with this user.