白い鹿  (4)

暫くするとオスカルが戻って来た。
「 どうだ?めぼしい獲物を見つけたか?」
アンドレは何も言わずただ首を横に振った。森の主の事はどうしてもオスカルには上手く説明する自信が無かったから。オスカルが馬から下りるのとほぼ同時に大粒の雨が降り出した。
「 オスカル,このすぐ先に教会がある。ひとまず其処で雨を凌ごう。」 
二人は馬に飛び乗って丘を下った。

*******

森が開けた所にその小さな教会が有った。白い石作りの教会は小さいながらいくつもの細長いステンドグラスが聖堂の両側に並んでいた。二人が中に入って行くと小太りで血色の良い神父様が二人を出迎えてくれた。 
「 雨に打たれましたな。丁度お茶にしようと思っていた所です。ご一緒にいかがですか?濡れた上着も乾かしましょう。」
「 はい、それでは遠慮なく頂きます。」
オスカルは喜んで神父様の後に付いていく。その後ろでアンドレが尋ねた。
「 あのう…もう一人の神父様はいらっしゃいますか?」 
「 もう一人の神父、ですか?」 
神父様が立ち止まってアンドレを不思議そうに見つめた。
「 はい、白くて長い髪のアイルランドでお生まれになった方で名前はエイダンと申されておりました。」 
「 何かの間違いでしょう。この小さな教会には私一人しかおりません。もう20年もここに居ますが神父は私一人です。」 
アンドレは訳が解らなくなった。あの修道僧も白い鹿もオスカルとの口づけの様に全て夢だったのだろうか。その時アンドレは聖堂のステンドグラスの一つに見入ったままその場に凍り付いた。 
「 こ…このステンドグラスは…?」
神父様はアンドレの指差すステンドグラスを見て笑い出した。
「 ああ,あなたが冗談のお好きな方だとは思いませんでした。あなたの仰る通りこれは聖エイダンです。」 
そのステンドグラスには白い鹿と佇む白髪の修道僧が描かれていた。震える声でアンドレが尋ねた。
「 聖エイダンと白い鹿の関わりと言うのは?」 
「 聖エイダンはある日狩人に追われていた美しい白い鹿を助ける為に神に祈ったそうです。神はその祈りを聞いて白い鹿を透明にして狩人から守ったと言われています。だから聖エイダンは白い鹿と描かれる様に成りました。」 アンドレは恐る恐る聞いてみた。
「 もしかすると聖エイダンはアイルランドのアイオナ島の出身ですか?」 
「 良くご存知ですね。」 
アンドレは一人呟いた。あれは全て夢だ。そうだ、きっと子供の頃に読んだ聖人の本に聖エイダンの事が書いてあったのだろう。それを記憶の何処かでおぼえていたのに違いない。そう思うと大分気が楽になってきた。 しかしオスカルがアンドレの顔をしげしげと見つめて尋ねた。
「 おまえ私が居ない間何をしていた?おまえも隅に置けないな。」 
「 どういうことだ?」 
「 おまえの頭に大きなたんこぶが有る。そして…」
オスカルがアンドレの口元にそっと指で触れた。そしてその指を見つめていった。
「 やっぱりそうだ。おまえの口元に口紅がついていたぞ!」
アンドレは驚きに大きく目を見開いた。オスカルが得意になって差し出した指先にはうっすらとだが確かに口紅が付いていた。それは間違いなく口づけたオスカルの口紅の色と同じ色だった………




………そして聖エイダンの言葉通りにアンドレの夢が叶ったのはそれから十数年先の事であった………



あとがき:This story is for my son, Aidan Joseph, who’s named after St. Aidan.
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Missy

Author:Missy
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