白い鹿  (2)

「オスカル、ここで待っていてくれないか?俺がコルビュジエ伯を屋敷まで送り届けてくる。」 
オスカルが首を振った。
「私が行こう。おまえとコルビュジエ伯を乗せたのでは馬が可哀想だ。」 
確かにそれはそうだ。コルビュジエ伯もアンドレも極めて体格が良い。アンドレは足を痛めたコルビュジエ伯とオスカルが馬で走り去るのを木の根にもたれかけて見送っていた。

*********

どのくらい経ったのだろうか。アンドレは小枝の折れる音で我に帰った。その音は密集した木の間から聞こえてくる。肩に背負った猟銃を握りしめて枝を掻き分けると何か白い物が目に入った。良く目を凝らしてみるとそれは白い鹿だ。
「も…森の主!」 
よく見ると白い鹿の巨大な角が木の幹に引っかかっていて,鹿がもがけばもがくほど動きが取れなくなっていく。ここからの距離なら子供にでも鹿を射止める事が出来るだろう。アンドレが銃を構えると鹿はもがくのを止めて 黒い瞳で真っ直ぐにアンドレを見つめ返した。その威厳ある姿を見ているとアンドレはどうしても引き金を引く事ができなかった。そして深い溜め息を吐くと鹿の方へ歩いて行った。 
「それにしてもおまえ見事に引っかかった物だな。」 
短剣をさやから外して木の枝を切り落としながらアンドレが鹿に話しかける様に言った。すると 
「いや、まったくですね。」 
と言葉が返って来た。アンドレが驚いて頭を上げると嫌と言う程木の幹で頭を打ち付けてしまった。 
「だ…だいじょうぶですか?驚かせてすみません!」  
アンドレが頭をさすりながら振り向くと白い髪の修道僧らしい男が立っていた。 
「あ…あなたは?」  
「私はこの先にある教会で厄介になっている者でエイダンと申します。」  
「失礼致しました,神父様。私はアンドレです。狩りの仲間を待っているところです。」  
エイダンは微笑んでいった。 
「ほう,貴方は狩りでここに来たと言うのにこの見事な獲物をしとめようとせず,代わりに逃がそうとしているのですか?」 
アンドレは恥ずかしそうに言った。
「はい。この鹿が余り見事で美しいものですから…どうしてもその命を奪う事が出来ませんでした。」  
「さようですか。では,お手伝いしましょう。」 
二人掛かりで枝を切り落としていくとやっと鹿の巨大な枝角が自由になった。鹿はまるで礼を言うかの様にもう一度アンドレを見つめると走り去り森の中に消えて行った。エイダンとアンドレはそれを満足げに見守った。 そして二人はアンドレの馬がつながれている木の根元に腰を下ろして暫く話した。
「神父様は何処のお生まれですか?」  
「私はアイルランドのアイオナ島で産まれました。」  
「やはりアイルランドの方でしたか!」 
「私の国の訛りはかくせませんな。」 
「いいえ,貴方の名前からそう思っただけです。」  
「お気使いなさりますな。どうも私はフランス語の発音がうまく出来ないのですよ!」 
エイダンは大きな声で快く笑った。
「年寄りのでしゃばりを許して下さい。実はあの鹿を見つめていた貴方の目がとても辛そうだったのでどうしても声をかけてしまったのです。」 
「神父様にはお見通しですね。実はあの鹿が自分の様に思えて…」  
なぜ見知らぬ修道僧にこの様な事を喋っているのか自分でも解らなかった。しかしアンドレは身分違いの恋に苦しみながらも諦める事は出来ずかといってオスカルのもとを去る事も出来ない自分がまるで身動きのできない鹿の様に思えた事を話した。

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Missy

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