白い鹿  (1)

「義兄上、今日は狩りのお招きを有り難うございます。」 
「おお。オスカル。近衛隊はどうだね。私の義妹が麗しき近衛隊長だと言う事は私の自慢の種でね。」 
オスカルの一つ上の姉、ジョセフィーヌの夫、サヴィニャック伯はおっとりとして静かな物腰の好感の持てる男だった。
「やあアンドレ,久しぶりだね。どうだい, 君も一緒に来ないかい?私の従兄弟が風邪をひいて一人足りないんだ。」
「いいえ私のような者には…」 
「あら,良いじゃないの,アンドレ。貴方なら乗馬だって射撃だって一通りこなせるし。」
ジョセフィーヌが口を挟んだ。オスカルも 
「そうだ、アンドレ。屋敷に残っていても姉上の退屈なお茶の相手をさせられるだけだぞ!」 
「まあ失礼な!」 
皆が明るく笑った。 
「じゃあ決まった。君はオスカルとコルビュジエ伯と組んでくれたまえ。」 
「はい…」 
狩りの大好きなコルビュジエ伯が二人に軽く会釈すると大分張り切り気味に言った。 
「今年こそはこの森の主と言われる白い雄鹿を射止めてみせるぞ!」 
「白い雄鹿ですか?めずらしいですね。」
アンドレが尋ねた。 
「ああ,巨大な枝角を持つ鹿で私も遠乗りの途中に見た事が有る。なかなか賢くて猟銃を持つ者は近寄らせないのだよ。」 
コルビュジエ伯を先頭に3人は馬を駆って森の中を進んで行った。アンドレの目の前を行くオスカルの黄金色の髪が秋の風に翻る。その美しい輝きがアンドレの目にしみた。 何時頃だったのだろうか。美しい幼なじみに友情以上の気持ちを抱いている事に気がついたのは。身分違いのその恋は叶うはずもなく、現にオスカルは北欧の貴公子への恋心で悩んでいる事も解っていた。それでも近くして限りなく遠いオスカルへの思いを断ち切る事は出来なかった。
「いいんだ…俺はあいつを見つめている事さえできれば…」 
アンドレは自分の気持ちを振り切る様に一人呟いた。その時だ。コルビュジエ伯の馬が切り株につまずいて轟音と共に倒れた。
「うわっ!」
馬から放り投げられたコルビュジエ伯は思いっきり地面に叩き付けられた。 足を挫いたのか足首を押さえながらエドゥアール・ド・コルビュジエが叫んだ。 
「ソレイユは…私の馬は…?」 
ソレイユの前足は無惨に折れ曲がり馬の苦しそうな息だけが静かな森の中に響き渡った。 オスカルが悲しげに首を振った。
「足の骨が折れています。大分苦しんでいるようです。」 
皆無言ではあったが、次にするべき事は解っていた。 オスカルはピストルをホルスターから外して苦しそうに喘ぐ馬の頭に当てた。オスカルの蒼い瞳から涙がこぼれる。 
「オスカル、ピストルを貸せ。俺がやる。」
アンドレがオスカルの肩に優しく手を置いた。
「いや,私がやります。ソレイユは私の馬です。こいつが産まれたその日から私の馬でした。」 
オスカルは素早く涙を拭くとコルビュジエ伯の為に馬から離れた。コルビュジエ伯は暫く馬の頭を撫でながら話しかけていたが一発の銃声が森の中にこだました。そして自分達よりも一回り年上のコルビュジエ伯が馬の亡骸の隣に座って静かに涙するのを離れた距離から見ていた。 
「ちょっとおまえの胸を貸してくれ。」
オスカルはアンドレの胸に顔を埋めると静かに泣いた。オスカルを優しく抱き締めて背中を擦りながらアンドレは自分の気持ちと戦っていた。腕の中の甘い香りが愛しくて…その桜色の唇を自分の唇で押し包みたくて。それでもできなかった。これだけ近くてもその人の心に自分がいないのが解っていたから… 

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Missy

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