四旬節  -Lent-(4)

「アンドレはいるかい?」 
隣の農家に住むポーレット・クレモンが大きな籠を持ってやってきた。
「ああポーレット。どうぞ座って下さい。今お茶でも淹れましょう。」 
「相変わらず気が利くね、あんたは。」 
南部の強い光の下で百姓仕事をして育ったポーレットの顔は浅黒くたくさんの皺が刻まれていた。それでもこの地で出逢った人が皆そうである様にポーレットも又心優しく世話好きな女で、特にセシルが産まれてからは百姓仕事の合間に La Petite Chaumière に立ち寄ってはセシルの面倒を見てくれたりする。
「フランシーヌ、じゃ無かった、オスカルは寝ているのかい?」  
彼女はこの地でオスカルの本名を知る数少ない一人だ。
「はい、セシルが正歯していて昨日の夜は余り眠れなかったのです。二人ともやっと今しがた眠りに着いた様で…」 
「ああ私におかまいはいらないよ。正歯にはカモミラを煎じて飲ませておやり。痛みや熱だけではなく下痢も治まるから。」 
4人の娘を育て上げ今は孫も10人いるポーレットは育児に関しては知識が豊富である。 
「そうそう今日はベルガモットを持ってきてあげたよ。あんたはそれで作ったオードトワレを使っているだろう?あれは本当に爽やかでいいね。家のセルジュにも作ってみたんだけど、どうも似合わないんだ。やっぱりあんたが男前だからかね…」 
ポーレットがベルガモットで一杯の籠をアンドレに渡した。
「こんなに沢山どうも有り難うございます。オードトワレだけではなくてオスカルは紅茶にこの香りを淹れて楽しむのが好きなのです。助かりました。」 
アンドレが居間の奥の毛布に囲まれた巨大な塊の方に歩いて行った。
「ではお礼代わりにこれを」 
「な…なんだいそれは?」 
「頂き物のシャンパンとコニャックです。」  
何本かのボトルを毛布に隠された木箱から出してきた。 
「別に怪しい物ではないのです。オスカルが四旬節の間禁酒中で…毎日酒の箱を眺めているのは酷かと思いまして…」 
「そうだね…それだけ有ったら地下室にもはいりきらないね…」 
アンドレが4本のボトルをポーレットに渡した。そのボトルを見た途端ポーレットは驚いて目を見張った。
「あんた方一体どんな素性なのかい?このシャンパン一本で何百籠ものベルガモットが買えるよ。これではもらい過ぎだよ。」 
交渉のあげくなんとかシャンパンとコニャックを1本ずつ受け取ってもらった。
「もし本当にそのシャンパンとコニャックを処理したいのなら神父様に相談してご覧。きっと何か良い考えを授けてくれるよ!」 
ポーレットは自分たちには一生手に入らぬ様な最上級の酒を手に帰っていった。 
「本当にありがとうよ!セルジュの驚く顔を見るのがまちきれないよ!」 
「ポーレット、忠告をありがとう。神父様に相談してみるよ。」 
アンドレが上着を着ながら言った。
「途中まで乗せて行ってあげるよ。」 
二人は一緒にLa Petite Chaumière を後にした。

残りの酒は358本。四旬節の終わりまでまだ半月近く有った。


*********

「本当にそんなに高価な物を頂いて良いのですか?”神父様が興奮して言った。
「シャンパーニュのシャンパンと言えば一流貴族や王室位にしか手に入らない晩品ではありませんか?」 
アンドレが少し恥ずかしげに答えた。
「いいんです。家には置く場所も無いので困っているのです。」 
「それでは御言葉に甘えて頂きます。丁度復活祭の催し物の中に競売があるのです。皆から寄付された物を売ってそのお金は孤児院の運営費や教会の修理費などに使わせて頂きます。」 
「その様に価値のある理由でしたら本望です。v  
「有り難うございます。修道輔祭のリシャールに貴方を御送りする様に命じます。」 
「ああ助かります。それでは帰り車にシャンパンとコニャックを積んでお持ち替えり下さい。」
**********

リシャールは山積みのシャンパンとコニャックを見て感嘆の声を上げた。
「これはすごい! それでいくつ頂けるのですか?」
「妻が楽しみにしていたものですからシャンパンとコニャックを一箱ずつ残して頂ければ後は全部お持ち下さって結構です。」 
「ありがたい! これだけの量が有れば教会の屋根も直せそうです! もう雨漏りがひどいのなんのって… 」 
アンドレはリシャールを手伝って木箱を馬車に積んでやった。大喜びの修道輔祭が帰った後は一箱ずつ残されたシャンパンとコニャックが居間の片隅にひっそりと取り残されていた。

**********

「そうか、姉上の贅沢わがままが人助けになるのなら此れ幸いだな。」 
「ああ、教会の修理だとか孤児院の子供たちに上着や靴が買える。」 
突然二人の顔から微笑みが消えた。
「靴と言えば…」
二人は同時に弟思いのそばかす顔の青年を思い出していた。未だ年若きその青年は革命の犠牲となり初夏のパリでその短い命を落とした。 
「お前もフランソワ・アルマンの事を考えていたのか?」 
「フランソワだけではないぞ。テュイルリー宮広場とバステイーユで戦死した者の家族が皆、唯一の収入をなくして苦しい思いをしているのだろう。」  
暫く考え込んでいたオスカルがやっと口を開いた。 
「この残りのシャンパンとコニャックをパリのアランに送ってくれないか? あいつならこれを上手く捌いてまとまった金を作る事ができるだろう。それを遺族の方達に分けてあげて欲しい。」 
「よし解った。それでこそ俺のオスカルだ!」 
早速アンドレが木箱を馬車に積む準備をしているとオスカルがそれを止めた。 
「ちょっと待ってくれないか?」 
オスカルが木箱を開けてコニャックを一本取り出した。それを愛しそうに暫く手に取って眺めていたが気持ちを振り切って元に戻した。オスカルがコニャックを戻したのを待ってアンドレが声をかける。
「本当に良いのか?」
「ああ大丈夫だ!もう覚悟は決めた!」 
オスカルの言葉には強い意志が感じられたがそれにちょっぴりの寂しさが混じっていた事もアンドレは見逃さなかった。                  

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