四旬節  -Lent-(3)

人は破れかぶれになると独創的に物を解釈出来る様になるらしい。オスカルのその時の心境もかなりの独創性があった。 
「この村に住むマダム・フランシーヌ・グランディエは四旬節中、酒を自粛しているがオスカル・フランソワ・グランディエは違う!」 
オスカルはいつもの女装ではなく久しぶりにキュロットとシャツを着た。首にはクラバットを巻き、金の髪を昔アンドレがしていた様に後ろで束ねると鏡の前に立つのは美しい細身の男性だった。窓からそっと覗くとアンドレが川辺でスゼットの餌用の魚を釣っている。それをセシルとスゼットが興味深そうに眺めていた。まるで絵の様に和やかな風景だ。オスカルはそっと厩に向かうと馬に乗って一人La Petite Chaumièreを後にした。

************

Vallée de Sérénité には酒場がたった一つしか無かった。 白髪で話し上手のマルセルが店主でオスカルとアンドレもポーレットにセシルを頼んでは二人で来る事が有る。しかし今日の男装では気づかれる事は無いだろう。午後の店内は未だ空いていて客はオスカルの他には4人の男しかおらず、4人ともサイコロのゲームに夢中で顔も上げない。 人目を避けてそっとカウンターに腰を掛けると、マルセルに声をかけた。
「ブランディーを一杯頂こう。」 
マルセルは顔を上げもせずに答えた。
「良いんですかい、マダム・グランディエ? あんたは四旬節の間は禁酒してるって旦那さんに聞きましたが。」
オスカルが狼狽えた。
「わ…私が解るのか?」 
何とも間の抜けた質問だが考えている暇はなかった。それを聞いて女給がオスカルの顔をまじまじと見た。
「あっ、そうだ。あなたマダム・グランディエでしょう? どうしたのよ、その格好? 仮装パーティーにでもいくの?」 
オスカルは居たたまれなくて 一言 
「失礼!」 
と言うと酒場を出た。オスカルは馬を駆って家に戻って行った。 
「何でばれたのだろう?それにしてもアンドレの奴、男のくせに無駄話が多すぎる!」

************

屋敷に着くとアンドレはもう戻っていてテーブルの上には夕食の準備が整っていた。セシルはもう眠っている様だ。 
「お帰りオスカル!お腹はすいているか?今スープを温めてやるぞ。」 
普段なら挨拶のキスをする所だがオスカルは一言、
「ああ解った!」 
と答えると寝室に入ってモスリンのスカートとペザントブラウスに着替えた。身支度が整うと今度はアンドレに後ろから抱きついてただいまのキスをする。 アンドレは事も無げに聞いた。
「久しぶりに男装なんかしていったい何処へ行ってたんだい?」 
「えっ?」 
オスカルは次の言葉も出なかった。何故だか皆がオスカルの策略を見抜いてしまう。 こうなったら恥を忍んで全てを話すしか無い。どちらにしてもアンドレに隠し事をするのは良い気がしない。 
「実はマルセルの店に行った。」 
「ほう、それで男装をしていたのか。それで酒は飲んだのかい?」 
オスカルは下を向いたまま小さな声で答えた。
「酒を頼もうとしたらもう私だと言う事がばれていた。それにしてもマルセルが何で私の禁酒の事を知っているのだ!」 
恥ずかしさの余りアンドレにやぶ蛇だ。
「尋ねられたんだよ、今度何時飲みに来るのかって。おまえが禁酒中だから四旬節が終わった後に行くと言った。」 
そう言われてみればごく当たり前の会話の様だ。
「しかし解らぬのはマルセルが一目も見ぬうちに私の男装を見破った事だ。」 
アンドレは笑い出した。
「何がそんなに可笑しいんだ?」 
オスカルの声が心持ち拗ねている。 
「そうか、おまえは知らなかったんだな。」 
「何を?」
「マルセルはね、昔海軍の水夫をしていたんだ。しかし訓練中に大砲が爆発して目を痛めてしまったんだ。彼の視力は俺の様に全盲では無いけれど限られているんだ。」 
「そうか!では私の男装を見破ったのではなくて、私の声を聞き分けたのだな。」 
「そのとおり。」
「何だ、ばかばかしい。」 
「手品も種を明かせばそんなものさ。」 
「それではおまえも種明かしをしてくれ。」 
「何の事だ?」
「何故私が男装をしていた事がわかった? おまえひょっとして実は目が見えているのではないか? まさか今までの事は全て私をからかっていたとか…」  
アンドレはさも可笑しそうに笑いながら答えた。
「俺の目は本当に見えない。信じてくれ。でも視力を失ってから俺の聴覚が鋭くなったのはおまえも知っているだろう?」  
「ああ。驚く程だ。」 
「家に帰ってきた時のおまえの靴音でそれが男物の靴だと解ったんだ。」 
「そんな違いも解るのか?」 
「あたりまえだ。お前の事だけを愛してきた俺だ。この体中の感覚の全てでお前を覚えている。お前の甘い香り、お前の肌の柔らかさ、お前の足音、その全てが愛しい。」 
アンドレの力強い腕がオスカルの体を包み愛してやまない弾力のある唇がオスカルの唇を塞ぐ。お互いの舌を絡め合わせながらオスカルが息絶え絶えに囁いた。 
「アンドレ、スープは後で良いぞ。」 
アンドレがオスカルの胸元に舌を這わせながら返事をする代わりに頷いた。 アンドレの耳たぶを優しく噛みながらオスカルが囁いた。

「…酒の代わりに今夜はお前に酔わせてくれ…」

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