花と蝶 (3)

明日から始まる降誕祭の休暇 にほぼ半分の使用人が 生家に帰る 。朝早く田舎に帰る者も多く今夜は皆早くから床に着いたらしく屋敷はとても静かだった。オスカルはどうも周りが静かすぎて眠れず葡萄酒を片手にバルコニーへ出てみた。暖炉の火で火照った体に冷たい空気が心地よい。その時厩の窓から光が漏れているのに気がついた。

「そう言えば今夜あたり子馬が産まれそうだって言ってたな…眠れぬついでだ。アンドレに付合ってやろう。」 着替えをして外套に身を包み外に出て行くとオスカルより一足先に厩へ向かう人影があった。その人影が厩の扉を開けた時、その者の顔が蝋燭の光に照らし出された。 
「ヴィルジニー?」  
オスカルの頭の中で先日の彼女の言葉が頭の中を駆け巡る。
「… 愛してもいない男のもとへ嫁ぐのが定めなら一度でも良い、好きな男に抱かれたい、そのひとの手で女になりたいと思うのはいけない事でしょうか?」 
「冗談じゃない!」 

オスカルは厩には入らず、そのまま裏に回った。飼葉桶を窓の下まで引きずって行って立てかける。 その上によじ登ると丁度厩の中がよく見える。音を立てない様にそっと窓枠を引き上げるとほんの少し窓が開いて二人の会話が聞こえてきた。 
「ヴィルジニー? どうしたんだ、こんな夜更けに?」
馬のお腹をさすってやっていたアンドレが人の気配を感じて振り向いた。 思いつめた様に無言で立ちすくむヴィルジニーを見て手を止めたアンドレが彼女の方に歩いてくる。
「こんな所でうろうろしていたら風邪を…」  
アンドレが言い終わる前にヴィルジニーがアンドレの胸に飛び込んだ。 
「わっ!」 
二人の足が縺れて抱き合ったまま干草の山の上に倒れ込んだ。 アンドレの上に覆いかぶさったヴィルジニーは体中の勇気を振り絞って自分の唇をアンドレの唇に重ねた。 しかし目の前の黒い瞳は驚きで大きく見開かれてヴィルジニーの唇に答えてはくれなかった。それに気がついた時ヴィルジニーはアンドレから離れた。その機会を逃さずアンドレも又飛び起きた。 
「私ってそんなに魅力の無い女なの?」 
「な…何を言っているんだ!君はとても愛らしいじゃないか!」  
「じゃあどうして? 私はあなたが好き。もちろん、結婚してくれだとか恋人にしてくれなんていわないわ。ただ一度で良い…私を抱いてほしいの。」  
ヴィルジニーがそう言うと首の紐をするすると解いた。彼女の全身を覆っていた黒いマントがふわりと干し草の上に落ちて薄い夜着だけに包まれたヴィルジニーの肢体が蝋燭の光の中に浮かび上がった。 
「うわ〜っ!!!」  
アンドレが慌てふためいて干し草の上のマントをつかむとそれで彼女の体を覆った。  
「馬鹿!何を考えているんだ!」  
アンドレのあまりにも期待はずれな反応に気持ちが挫けてしまったのかヴィルジニーはそのまま座り込むと泣き出してしまった。途方に暮れたアンドレはヴィルジニーの背中をさすってやった。
「一体どんな訳が有るか解らないけど…俺で良かったら話してみないか?」 

二人は干し草に並んで腰掛けるとヴィルジニーがゆっくりと話し始めた。 
「それでおまえの婚約者に会った事が有るのかい?」 
ヴィルジニーは首を横に振った。
「それなら早まっては行けないよ。もしその人がとても素敵な人だったらどうする?  その人こそがお前と一生を共にするに値する人だったら? お前はもっと自分を大切にしなければいけないよ。休暇は家に帰るのかい?」「ええ…」 
「それなら休暇中に婚約者にあってみるといいよ。心配するな。俺は何時でも相談にのるぞ。」  
「ありがとうアンドレ。あなたはとってもやさしいのね。私の婚約者もあなたみたいな人だと良いのに…」  
ヴィルジニーはアンドレの頬にそっと口づけして涙を拭きながら微笑んだ。 
「アンドレ…あなたは愛する人がいるの?」
「ああ。」
「ふ〜ん。その人幸せ者ね!」 
ヴィルジニーは勢い良く立ち上がり扉の方に歩き出した。 
「大丈夫。一人で戻れるから。この馬の側にいてあげて。」 
ヴィルジニーはもう一度微笑むと静かに厩を去って行った。

**********

窓の外で一部始終を見ていたオスカルは二人の間に飛び出して行く機会を逃してしまった。ヴィルジニーが屋敷の中に消えて行ったのを確かめてから何食わぬ顔をして厩の扉を開けた。 

「オスカル?どうした…?おまえ体がこんなに冷たいぞ!」  
オスカルに毛布を掛けその上から背中をさすった。
「もうそろそろ子馬が生まれる頃かと思って…」  
二人は並んで腰掛けアンドレはオスカルを暖めようと毛布の上からオスカルを抱き締めた。ヴィルジニーの言う通りだ…お前は本当に良い奴だな…そして私はしあわせものだ… オスカルは心の中で呟いた。アンドレの温もりで心も体も暖かくなってくる。オスカルはそっとアンドレの胸に頭を預けた。 

「オスカル…」 
その声に顔を上げると目と鼻の先にオスカルを見つめるアンドレの瞳があった。心臓の弾けそうな高鳴りを押さえてオスカルはその一つしか無い黒瑪瑙の瞳を見つめ返した。今ならアンドレに唇を奪われてもかまわない…いいや、それが何よりも欲しい…  
「…お前、鼻の頭に泥が付いてるぞ!美人がだいなしだ!」  
アンドレがケラケラと笑いながらハンカチを取り出してオスカルの鼻をこすった。
「へっ???」 
二人の会話を聞き逃さぬ様に厩の窓に顔を近づけ過ぎたらしい…  

静かに干し草を食べている馬を見つめながら、
「子供の頃を思い出すな…」
アンドレが懐かしそうに目を細めた。まるで20数年前の二人を見ている様に。
「そうだな。昔もこうして子馬の産まれるのを二人で見たな。」 

オスカルも目を伏せて黒い巻き毛の少年と戯れる懐かしい子供の頃の自分を見ていた。
 




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