牧羊犬

この話は二人が7月13−14日を生き延びたと説定して書いてあります。。。


“。。よかったな、思ったよりの収穫だった!“ 市場で買った野菜や燻製の肉などの沢山詰まった麻袋を背負ったアンドレの腕にそっと手を預けるオスカルはさりげなく人ごみの中の彼を誘導していた。アンドレの美しい目はもう見えていない。住み慣れた家やその敷地内はもう既に把握していて動き回るのに不自由は無かったが初めて訪れた野外市場ではさすがにアンドレも手助けが必要だった。石畳の広場には何列もの台が並びその上で商人や農民達がありとあらゆる物を売っている。その隙間を慌ただしく歩き回る人の群れを避けながら2人は荷馬車が止めてある樫の木の下へ歩いていく。オスカルはパリを離れてからはフランシーヌ(フランソワの女性形)と名乗り今日も未だ慣れないモスリンのドレスに身を包んでいた。長身で美しい2人はよく目立ち誰が見ても相思相愛の夫婦である。

2人の荷馬車の綱がれた樫の木の下では農民らしい若夫婦が 1歳位の男の子と休息しているようだった。その側には雪の様に白い大型犬と3匹の子犬が眠っていた。“珍しい犬ですね。初雪の様に真っ白で。。。こんな犬は見た事無い。” オスカルが夫婦に挨拶をしながら言った。“家の女房はアルザス地方出身でドレスデンに住む親戚からこの牧羊犬をもらったんです。もっとも 家には牧羊犬が必要なほど家畜はいないんですけれど。”  真白い牧羊犬はその純白の毛とは対照的な黒い鼻と賢そうな黒い瞳で静かに眠る子犬と幼子を交代に見つめていた。とその時幼子が母親の膝をはなれて馬車道の方に這い出した。すると何も言わずに牧羊犬が立ち上がり這いずる子供の前を塞いだ。子供は牧羊犬に顔をなめられてケラケラと笑っている。その子供を頭で優しく押しながらまた母親の方向へと誘導していく。”アンドレすごいぞ!なんて賢い犬なんだ!“  オスカルは牧羊犬の行動を詳しくアンドレに説明した。農民の若夫婦はそのとき初めてアンドレが盲目だという事に気がついたらしい。オスカルの説明に見えぬ目を輝かせながら頷くアンドレは妻が愛しくて仕方ないのがだれにでも解る。 “なんせ牧羊犬ですからね,家畜だけではなく子供でも子犬でも誘導する習性があるんですよ。”  ”…何でも誘導する習性か…“ オスカルはしばらく考えこんでいた様だったが 思い切った様に若夫婦に言った。”すまないがこの子犬を一匹譲ってもらえないだろうか。代金は払う。“ それまで無言だった農民の妻がドイツ訛のある暖かく優しいメゾソプラノで答えた。”代金はいりません。賢い犬ですから優しく根気よく教えれば何でも良く覚えてくれます。きっと御役に立つと思います。“ 

オスカルとアンドレは農民夫婦に厚く礼を言って荷馬車に乗り込んだ。2人で並んで御者台に座りオスカルが手綱を取る。アンドレは膝の上で眠る雌の子犬を大事に抱きかかえた。“こいつに名前が必要だな。。。”  オスカルが言った。”スゼットはどうだ?“ アンドレが余リにも早く答えたのでオスカルが眉間にしわをよせた。“そういえば母上着きの女中にスゼットという娘がいたな。赤毛でエメラルドの瞳のなかなかの美人だ。。。お前の好みか?” オスカルが少し拗ねているのがアンドレには良く解る。“馬鹿,俺がお前一筋なのは解っているだろう。スゼットは昔飼っていた犬の名前だ。仕事で留守の多かった父さんが母さんが寂しくない様にって。俺が6歳くらいのときに死んじまったけどその頃には俺もいたし母さん寂しくないから大丈夫だってもう犬は飼わなかった”  アンドレが懐かしそうに言った。彼の黒曜石の瞳は 30年昔を見ている様だ。 オスカルは “そうか。。よし、それではこいつはスゼットに決めたぞ!”  そうと決めるともう機嫌をなおしている。 “オスカル、お前こそどういう風の吹き回しなんだ?突然犬が欲しいだなんて。“   オスカルが考え深げに答えた。 “お前も聞いただろう?誘導するのがこの犬の習性だ。訓練によればお前の目の代わりになってくれるかもしれん。”  アンドレは何も言わなかった。彼が自分の 事で出来るだけオスカルに世話をかけたくないと思っていた。(オスカルはもちろん
その事を苦にしてはいないのだが。。)それを知っているオスカルが彼の自立の為に犬を飼おうと言ってくれたその思いやりが嬉しかった。”それに. . .” オスカルが少し躊躇いがちになった。“それに. . . .?” アンドレがオスカルの頬に優しく手を伸ばした。アンドレは彼女が耳まで赤くなっているのがその指先から伝わる熱さでわかった。“子育てなど縁の無かった私だ。犬にでも手が借りたい!” “子育て?オ。。オスカル。。。お前???”  “ああ,多分間違いない。”  オスカルがはにかみながら答えた。  愛してやまぬオスカルが俺の子供を宿している!! 余りの嬉しさにアンドレの目からは涙が止めども無く流れて止まらない。 アンドレは片手で子犬を抱きもう片方の腕でオスカルの肩をおもいきり抱いた。“おい止せ。馬車が溝に落ちるぞ。そんなに泣くな!”  自分の涙をそっと拭いながらオスカルが気丈に言った。アンドレの愛とこの上も無い幸せをかみしめながら。。。。  




後書き:シェパードが犬種として成立したのも盲導犬が正式に訓練されるようになったのももう少し先の事です。。でも作者の個人的思考と趣味でお二人にホワイトシェパードを飼って頂きます。(笑)ちなみに太古の火山噴火で知られている有名なポンペイの壁画には、目の不自由な男性が犬に導かれて市場を歩く姿が描かれているそうです。

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