花と蝶 (1)

オスカルはカーテンの間から差し込む朝日の光に目が覚めた。久しぶりの休暇。 ...そうだった。昨日はアンドレと二人でアントワネット様に謁見して…帰宅してからも何だかアンドレと離れたくなくって夜遅くまで酒の付き合いをさせてしまった。あいつはもうとっくに起きているだろうな…

毛布を肩にかけバルコニーに出て行くと冷たい空気にオスカルの吐息が白く見えた。彼女の視線は無意識のうちに厩の方を見ていた。思ったとおりそこに干し草の俵を運ぶ彼の姿があった。  力仕事をしているためか12月のひんやりと冷たい空気にまるで気がつかない様にアンドレはシャツ一枚だ。 オスカルがアンドレに声をかけようとした時一人の女中がアンドレの方に向かって歩いて行くのが見えた。 

「見慣れぬ娘だな…?」 
その娘はアンドレにはにかみながら声をかけると彼にタオルとグラスの水を差し出した。アンドレはいつもの屈託ない微笑みで礼を言うと、タオルで額を拭き、グラスの水を飲んだ。二人は一言二言、言葉を交わしたがアンドレはもう一度娘に礼を言ってグラスとタオルを返すと又俵を運ぶ作業に戻って行った。只それだけのことだった。しかしオスカルがバルコニーを離れようとした時その女中の動作にオスカルの体が硬直した。 アンドレが見えなくなったのを確認した娘は手に持っていたタオルに頬ずりしたのだ。目を伏せてアンドレの香りを胸一杯吸い込んだ娘はそのタオルを胸に抱き締める様に又歩きだした。

オスカルは逃げる様に自分の部屋に駆け込んだ。 
「何故私の心がこうも揺さぶられるのだ!」 
アンドレに恋をする娘はあの女中が初めてではないだろう。でも今は何も考えられない。急いで着替えを済ませて階段を下りて外へ出て行くと さっきの娘が裏庭で洗濯物を干している所だった。

「お早うございます、オスカル様。」 
娘は思ったより若く栗色の髪に褐色の瞳が愛くるしい。
「おまえの名は?」 
「ヴィルジニーと申します。行儀見習いの為奥様付きの女中として半年前からお世話になっております。」 
オスカルは自分の口が勝手に動いているのに気がついたがそれをとめることができなかった。 
「おまえはアンドレを愛しているのか?」  
何をぶっきらぼうに…そう思ってももう遅い。 しかし若さ故の素直さだろうか。ヴィルジニーは臆せずオスカルに答えた。
「オスカル様に見られてしまったのですね。お恥ずかしい所を見せしてしまいました。 はい、オスカルさま。私はアンドレが好きです。でもあの人と一緒になりたいなどとは思っておりません。」 
「では何故?」
ヴィルジニーはもっていた洗濯物の籠をおろして自分より頭一つ分背の高いオスカルをゆっくりと見上げた。
「オスカル様、私には親に決められた婚約者がおります。ここでの行儀見習いを終えたらすぐ嫁ぐ事に… 愛してもいない男のもとへ嫁ぐのが定めなら一度でも良い、好きな男に抱かれたい、そのひとの手で女になりたいと思うのはいけない事でしょうか?」 
オスカルはヴィルジニーの一途な言葉に何と答えてよいのか解らなかった。頭の中に一時は自分の婚約者だったジェローデルの顔が浮かぶ。もし自分が愛してもいない彼と結婚しなければ行けなかったとしたら? オスカルの頭の中にアンドレの笑顔が突然浮かび甘い衝撃が胸を貫いた。オスカルの沈黙を同意と考えたのだろう、ヴィルジニーはオスカルに微笑んだ。オスカルは咄嗟に 
「それでアンドレの気持ちはどうなんだ?」 
「解りません。でも男の人と私達女とは違います。」 
「それはどういう事だ?」 
まるでヴィルジニーが重大な秘密を打ち明ける様に伏し目がちに囁いた。
「蝶が渇をいやすのに花が薔薇であろうとレンゲであろうと蜜に変わりは無いのです。」  
「えっ?」  
「オスカル様、男は女の誘いを断る事は先ず有りません!」  
オスカルに目配せした。 
「そ…うか…」 
「オスカル様も私の願いが叶うのを祈ってくださいませね!」  
屈託なく笑う娘にオスカルは答えた。 
「ああ。お前の為に神に祈る。」
 
何だってそんな事を言ったのか自分でも解らない。アンドレの胸に抱かれる娘の姿を想像しただけで体中の血が沸騰してしまいそうなのに。

自分の部屋に戻ったオスカルは寝台に倒れ込む様に横になった。枕を握りしめながらその名を呼んでみた。
「…アンドレ…」


 
 


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Missy

Author:Missy
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