Saber Arch ~光の並木道~

Saber Arch ~光の並木道~

「さあできましたよ,オスカル様。」
ロザリーはオスカルの手を取り姿見の前まで彼女を導いた。
生まれて二度目に着る ローブはオスカルの瞳の様な蒼。 ロザリーが心を込めて縫った絹とリネンの英国型でオスカルの細いウエストを強調していた。ローブに慣れていないオスカルの為にパニエではなくポケットフープで形を整えてあり, 着心地もさほど悪くは無い。 胸元の開き具合も控えめでいつも軍服に隠されていた白い肌は今も シャンテイリーレースの下にある。 
「とてもお美しいですわ」 
ロザリーがオスカルの緩やかに結い上げた髪に蒼いボヘミアンクリスタルの髪飾りを挿した。 
「これはお屋敷に居たときに奥様が私に下さったものです。もし良ければお使いになって下さい。」 
「母上が?」 
「はい、お屋敷に来て初めてのクリスマスに。 それ以来大事にしまっておりました。」  
「そんな大切な物を身につける訳には…」 
「いいえオスカル様。 今日の日にオスカル様に使って頂ければ光栄ですわ。」 
ロザリーの大きな目からもう涙が溢れ出した。 
「オスカル様、どうぞアンドレとお幸せになって下さいね。」 
「ありがとう, ロザリー。」

その時控えめなノックとともにベルナールの声がドアの外から聞こえて来た。 
「準備はどうだ? そろそろ時間だ…」
扉が静かに開き蒼いローブに身を包んだオスカルが少し戸惑い気味に足を踏み出した。
「ベルナール,たのむぞ。」 
「ああ,まかせろ!」
白薔薇の花束 をオスカルに手渡すベルナールの腕にそっと手を預けた。本来ならば花嫁のエスコートは父親の役目だ。 しかし今は革命軍に寝返ったオスカルと親王貴族の父は敵になってしまったのだ。王家の手前自分の両親には一生会えないかもしれない。 
「父上、母上,親不孝をお許しください。でもこれは私の信ずる道です…」

ベルナールが聖堂に続く扉を開けると両側の ステンドグラスからさし込む光が信者席の間の通路に敷かれた白い布をプリズム色に染めていた。ベルナールのエスコートでプリズムの絨毯の上を ゆっくりと歩く。信者席にはロザリー、兵舎で働く料理人やもう何年も前に暇を取り嫁にいった筈のオスカル付きの女中まで来ていた。何人かはオスカルの知らない者もいたがそれはアンドレの縁のものだろうか? 祭壇の前に立つ神父様の横に佇むのは紺地に金の刺繍をあしらった礼服を着たアンドレであった。 アンドレの表情はとても穏やかで優しく,まるでこの世で一番美しい物を見るかの様にオスカルを見つめていた。オスカルはその笑顔を見ただけで今までの苦しみや悲しみが心の中から流れさる様な気がした。 
「そうだ。永い事私だけを見つめて,私だけを愛して,私の側にいてくれたアンドレ,私の最愛の人。これから何が起きようと私に悔いは無い。二人でなら何でも克服できる確信があるから。」

ベルナールがアンドレの隣にオスカルを導くと二人の手を重ね合わせた。主への祈りの後神父様が二人の誓いに立ち会った。
「私たちは夫婦となって、順境においても逆境においても、病気の時も健康のときも、豊かなときも貧しいときも、生涯愛と誠実を尽くすことを誓います。」
「主よ,夫婦と成った二人にご加護を。そして信者の皆様,この二人に祝福を。」
ふたりは口づけを交わし夫婦として初めての 聖体拝領を一緒に受けた。二人で並んでニーラーに跪きながら神に祈りを捧げているとアンドレがオスカル に微かに囁いた。
「愛しているよ…俺は今世界中で一番幸せだ… 」
子供の時を思い出す。いつも二人でお祈りをする振りをして神父様や大人の目を忍んではお互い に囁き合って退屈しのぎをしたものだ。又あの頃の幸せで平和な日々に包まれた様な気がする。
「私もだ。大分遠回りをしたけれど…私もやっと目の前に有った幸せを見つけ出す事ができた…」   
オスカルも出来るだけ神妙な顔をして祈りを捧げる振りをしながらアンドレ に囁いた。

最後の祈りが終わると二人は神父様の後を付いて皆の祝福を受けながらもう一度プリズムの絨毯を歩く。 その時一番後ろの信者席の女性に目が留まった。ごく普通の木綿の服を着た女性はオスカルの様な金髪に白いレースのマンティーヤをかぶっていて顔は見えない。その女性の側を通ったときオスカルの鼻を懐かしいラベンダーの香りが包んだ。 
「まさか?」 
オスカルが立ち止まるとマンティーヤの下から現れたのは愛する母上の優しい笑顔だった。
「母上!」 
オスカルの手を取ってジャルジェ婦人が言った。 
「オスカル…愛しい私の娘。ロザリーからあなた方の事を聞いてどうしてもあなたの花嫁姿が見たいと…ロザリーに無理を言ってしまいました。」 
家を裏切った娘の為に平民の装いをしてまで来てくれた母の優しさにオスカルの胸が痛かった。 その気持ちを察してか 
「オスカル,そのような顔をするのではありません。この装いも仮装舞踏会の様で楽しくてよ。 いつも辛い思いをして男の道を歩いてきたあなたが今こうして女としての幸せを掴んだ事が私には何よりも嬉しいのです。それはあなたの父も同じです。」 
「父上も? 」
「もちろんですよ。 王家の手前,公にはできないにしろあなたの父も二人が無事で幸せである事をとても喜んでいるのです。」 
そしてジャルジェ婦人がアンドレの方を向いて微笑んだ。 
「アンドレ…私達は昔からあなたを我が子同様に愛しておりました。今まで以上にあなたに苦労をかける様になるでしょうがオスカルを宜しく頼みます。」 
「奥様…」  
ジャルジェ婦人の心使いにアンドレの胸は一杯で声が詰まった。
「さあ,お行きなさい。二人で選んだ道を…」  
それを合図に神父様が教会の石階段に通ずる大きな扉を開けるとオスカルが目を見張った。 


教会の前には2列に並んだ衞兵隊の皆がいた。 先頭に立つアランが代表で言った。 
「おめでとうございます、隊長とアンドレ。 俺たちからの祝福を受けて下さい。」 
アランの号令と共に衛兵達が向き合い腰のサーベルを抜いた。

”Present Arms!”

衛兵達がサーベルを前方に高く掲げた。向き合った衛兵達のサ−ベルが先だけかち合った。 
「私にサ−ベルアーチの名誉をくれるのか? でも私は軍服を着ていない。」 
サ−ベルアーチは将校の結婚式のみに与えられる名誉で将校が軍服でなければならない。
「あの…これを…」 
いつの間にかロザリーが金色のサッシュを持って立っていた。 
「全部とはいきませんがこれでオスカル様も軍服の一部をお召しになれます。」 
オスカルのウエストにサッシュを巻き後ろで結んだ。 隣で微笑みながら見ているアンドレに 
「どうやらおまえも一枚噛んでいた様だな?」 
「なんのことだ?」 
とぼけるアンドレをよそにオスカルがアランに言った。 
「ありがたくサ−ベルアーチを頂くぞ。でも私の尻は叩くな! 私は軍事家庭の出身だ!」  
普通は軍事家庭に迎えられる花嫁の尻を皆がサーベルの峰で叩いて祝福するのが習わしだ。しかし生まれも育ちも帯剣貴族のオスカルには今更のこと。 
「承知しております。」  
アランが不気味ににやりと笑った。  そしてアンドレに手を取られて二人はゆっくりとサ−ベルアーチの下を歩いて行く。頭の上に掲げられたサーベルは太陽の光を反射してきらきらと輝いた。 
「綺麗だ…まるで光の並木道だ…」
すると突然サーベルがアンドレの尻に打ちおろされた。 ぱしっ!  
「痛え!」 
アンドレが悲鳴を上げた。  
「軍事家庭へようこそ!」 
「な…なんだ?」 
ぱしっ! 
「隊長には約束したけどおまえの事は約束してない!」  
ぱしっ! 
「畜生アンドレ! 俺たちの隊長を独り占めしやがって!」 
ぱしっ! 
「俺たちの分まで隊長を大切にしろよ!」  
ぱしっ! 
「隊長を不幸にしたら俺たちが只じゃおかねえ!」 
ぱしっ! オスカルは大声で笑いながらアンドレの隣を歩いて行く。 
「お手柔らかに頼むぞ! アンドレは私の大事な夫だ!」  

オスカルの言葉は返って衛兵達を妬かせアンドレの尻に打ちおろされるサーベルに力が込められた……  

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