再会〜アラン〜

再会〜アラン〜

暗闇の中を俺はゆっくりと進んでいく。俺は歩いているのか這っているのか...まるで緩やかな川の流れに体を任せるように心地よい闇の中に俺は抱かれていた。体を貫いた銃弾の熱さも疼くような痛みもまるでない。
「そうか...俺は死んだのか...?」
とその時、目の前が突然明るくなり遥かに広がる草原にたたずむ自分を見つけた。雲一つない青空に柔らかな春の様な日差しが心地よい。そよ風に乗って草の萌える香りが俺の鼻をくすぐる。 

「やあ、アラン! 待ってたぜ〜!」
背後から永い事聞いていなかった声が聞こえてきた、と同時に誰かが俺の背中に飛びついた。振り向くとテュイルリー宮広場で最後を迎えた戦友達が微笑んでいる。
「フランソワ,ジャンも!」
俺は昔のようにフランソワの頭を手でくしゃっとやると小柄なジャンを抱え上げた。地面に着かない足をばたばたさせながらジャンが言った。
「アランも出世したな〜。将軍なんて。俺たちの仲間からこんなに偉いやつが出るなんて自慢の種だぜ!」
吃りもせずジャンがすらすらと喋った。フランソワもすかさず,
「そのとおりだ。おれたちはず〜っとアランの活躍を見ていたんだぜ。あの方もご一緒に..」
フランソワがいたずらっぽく言いながら俺の後方に目をやった。

「あの方?」 
おれが振り向くとあの女がいた。風にそよぐ黄金の髪が太陽の光を受けて輝いている。地中海よりも深い彼女の瞳の蒼が俺の心臓を高鳴らせる。  
「た...隊長!」 
あのアベイ牢獄から釈放された日の様に腕を広げて近づいてくるあの女の慈悲に満ちた聖母様の様な微笑みが眩しい。
「隊長はないだろう?私はもう軍人ではないし..第一お前の方が私より位が高い。」
「お..俺にとって隊長はいつまでも隊長ですっ!」
俺は何故か頭に血が昇るのを感じながら早口に言った。畜生.. まるでガキみてえだな..自分で自分が嫌になる。そんなことを考えているうちに隊長は俺の直ぐ前に来ていた。

蒼い瞳を縁取る金褐色の絹糸の様な長い睫毛の一本一本が真近に見えるほどの近距離で真っ直ぐに俺を見つめている 。俺はその瞳に吸い込まれそうになる。今まで忘れた事のなかった愛しい人の甘い香りが広がってくる。俺は水中に溺れる人間の様にその甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 まるでそれが俺に与えられた最後の一息の様に。そんな目で俺を見ないでくれよ...本当に息が詰まりそうだ。

「有り難うアラン。私達の始めた新しい国作りの意思を貫いてくれて。お前のおかげで私にはもう思い残す事はない。よくやってくれたな。皆を代表して礼を言うぞ。」 
「で...でも隊長..新しい国作りはまだまだ完成していない。俺にはまだやらなければ行けない事が沢山ある…」
隊長が俺の言葉を遮った。
「いいんだよアラン。お前はずっと全速力で駆けてきた。お前の残した遺産は次の世代の勇者達に委ねろ。」 
それでも何か言いたげな俺の気持ちを悟ったか隊長が続けて言った。
「歴史の輪というものはとても広大すぎて一人の人間が動かせる物では無いのだよ。私達一人一人の努力がモザイクの様に組み合わされてやっと前進できるものなんだ。お前はやるべき事をした。もう休んでいいんだよ。」 
隊長の笑顔は今までに見た事の無い程安らかで俺の心が甘く疼く。
「さあ,お前の両親や旧友達が待っている。行くぞ。」
隊長は俺の返事を待たずさっさと歩き出した。

あっけにとられて躊躇していると誰かが肩をポンと叩いた。
「気にするな。今は分かり難い事だが直ぐに慣れてくる。オスカルだってお前と同じ顔をして同じ台詞を聞きながらいらいらしていたぞ!」 
何時から来ていたのだか俺の隣にはあの黒髪で長身の親友が立っていた。
「アンドレ!お前見えるのか?」
「ああ,両目ともな!」
昔は前髪で隠されていた左目が光を失われたはずの右目と一緒に輝いている。俺たちは笑いながら肩を組んで歩き出した。
「俺の事もうケツが青いなんて言えねえぞ。俺の方がてめえよりよっぽど老け込んじまった!」
「その通りだな...じゃあこれからは将軍様の奢りで飲ませてもらうぞ!」
「ああ俺に任せろ!」
「それと....」

アンドレがいたずらな目をして可笑しそうに言った。
「俺の女房を見てあんまりでれでれ鼻の下を伸ばすな!みっともないぞ!」
それだけ言い捨てるとあいつはさも可笑しそうに笑いながらあの長い足で走り出した。瞬く間に隊長に追いついたあいつは最愛の女の腰を引き寄せるとその黄金色の髪に口づけを落とした。 畜生!あいつの目は治っても憎まれ口は治ってねえな。俺は顔が火の様に赤くなるのを感じながら拳を振り回してあいつを追った...思いつく限りの悪口をあいつの背中に浴びせながら...





あとがき:お家のお掃除をしていたら突然このストーリーが頭に浮かんできたので早速書いてみました。(笑)一応アランが天国で皆に再会するという設定なのですが,デイアンヌが出てこないのは彼女が自殺したからです。デイアンヌは好きなキャラクターですが私もカトリック教徒なのでどうしても自殺した彼女を天国に行かせる事ができませんでした。デイアンヌファンの方、お許しください。

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Missy

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