Sainte Cécile (聖セシル)

このストーリーは優しい励ましの言葉をくださったクオーレ様に捧げます... クオーレ様どうもありがとうございました!

Sainte Cécile (聖セシル)

南フランスの春は早い。アーモンドの高木からひらひらと花弁が散りまるで季節外れの雪吹雪の様だ。オスカルのお腹の子も順調に育っていて二人はもうあと半月程で親になるという不安と幸せをかみしめている。
「アンドレ,手を...」  
お腹を押さえて興奮気味なオスカルが叫んだ。
「ど...どうした? 痛むのか?」
「いいや,あんまり勢いよく蹴っ飛ばされた!おまえも触れてみろ。感じるはずだ。」 
「どれどれ...あ! 動いたぞ!何と力強い蹴り方だ。これはきっと男だな。きっと俺に似て良い男になるに違いない!」 
「呆れた奴だ。勝手に男の子にするな。私の子なら女でも元気は良いぞ!」
「それは確かだ。お転婆で負けず嫌いのお嬢様。」
「今はもう奥様だ」
「はいはい、マダム・グランディエ。」  
「なかなか良い響きだ,ムッシュー・グランディエ。」 
他愛ない二人のやり取りを聞きながらすっかり大きくなった牧羊犬のスゼットが足下で骨を齧っていた.

「さてと...俺はラベンダーとローズマリーを取ってくるよ。レモンの出来具合も調べときたいし。」
ラベンダーもローズマリーも胸の病に効くと聞き何時でも新鮮な物が手に入る様にとアンドレが La Petite chaumière の敷地内で栽培している. オスカルの頬に軽く口づけすると彼女のお腹に向かって 
「おまえもがんばれよ...もう暫くのしんぼうだ。」  
と囁いた。


アンドレが出かけたあと、オスカルは茶を淹れた。やっとどうにかこうにか自分の身の回りの世話が出来る様になってきた。洗い物をしたり簡単な食事を作ったりといった農村の女性なら当たり前の仕事をこなせる様になってきた事が誇らしくてたまらない。  
「もっとがんばらないとな...アンドレにこれ以上の負担を掛けない為にも, もうすぐ出会う我が子の為にも。」

居間でゆっくり茶を楽しみながら数日前に届いたロザリーの手紙の返事をしたためる。 ロザリーは危険を覚悟で親王貴族のジャルジェ家へ出向きオスカルの懐妊を両親に伝えてくれた。王室の手前、公けには出来ないとしてもオスカルの両親はオスカルとアンドレの結婚を密かに祝福してくれたし二人の子供が生まれると聞き泣いて喜んだという。心優しく慎ましいオスカルの母が遥か遠くのベルサイユで彼女達を思ってくれている事がオスカルにはよく解っていた。毎日の様に貴族がベルサイユを離れて行く中で国王に忠誠を誓い滞る父とそんな夫の側を離れぬ母。そんな二人を守ってやれない事が心苦しい。 
「最も今の私は足手纏いにしかならんな。」 
オスカルはそっと大きくせり出したお腹に手をやった。今日は先ほどから下腹部と腰が痛む。もともと我慢強いオスカルは持ち前の強い精神力で痛みを遮りロザリーへの手紙の返事を書く事に専念した。その時今までよりも強い圧迫感と共に生暖かい液体がオスカルの体から流れ出た。 
「こ...これは...」  

動揺と混乱の中でオスカルは幼き日の記憶を思い出していた。それは未だ二人が10代の頃厩で仔馬が生まれる所を見たことがあった。 アンドレとオスカルは干し草の上に座って栗毛のアラビア馬を見守っていた。 あの時先ず破水した。馬は苦しそうに立ったり,寝たり,いきんだり...そしてやっと見えてきた子馬の頭と足を使用人が二人掛かりで引っ張りだしてやった。 

「まずいな...わたしも迂闊だった。未だ2週間も有ると思ってこの痛みが陣痛だと考えてもみなかった!」 動けば動く程羊水が流れ出す。 
「ここはひとまずじっとしてアンドレを待つしかないな..」 
するとそれまで隣で寝ていたスゼットがオスカルを真っ直ぐに見つめている。普段の優しい顔ではなく不安と痛みで険しい面持ちになったオスカルが苦しそうに息をしているのを見て何を思ったか窓際の長椅子に飛び乗り,その背もたれから開いていた窓をつたって外へ飛び降りた。 
「スゼット!」
オスカルはスゼットを呼んだが無駄なことは承知だった。いくらスゼットが飛び上がっても外から窓に飛び載ることは無理だ。  
「そうか...こいつはこうやって私達に内緒で外に遊びに行ってたんだな...」 
何度か知らぬ間に外に出ていたスゼットが 扉をガリガリ引っ掻いて入れてくれとせがんだ事が有る。   
「あの時は扉を閉め忘れたのかと思ったがこういう事だったのか...」 
オスカルはこの非常時にそんな事を考えている自分に苦笑してしまった。

*****

「オスカル!!!」  
扉が勢い良く開いて息を切らせたアンドレが走り込んできた。 
「アンドレ!よかった!」  
「オスカル,どうした?びっくりしたぞ。」  
「破水した。どうやらこの子は私に似てせっかちのようだ。二週間も早くおでましとは...」 
アンドレはそっとオスカルを抱き上げて寝台に運んだ。  
「そうだったのか...俺は川辺でローズマリーを摘もうとしていたらスゼットが吠えながら俺の所へ走ってきた。 スゼットは何とも落ち着かない様子で吠えるのをやめない。普段聞き分けが良くおとなしいこいつがこんな態度を取るのは初めてだし...お前はスゼットを一人で外に出す事も先ずないから何か有ったのかと思ってもどってきたんだ。  
寝室に入ってきたスゼットが寝台の横でオスカルを見つめている。 
「良い仔だ、スゼット。アンドレを呼んで来てくれたのだな。ありがとう。」 
スゼットが嬉しそうにちぎれる程尻尾を振った。

******

アンドレは急いで隣の農家へ走りマダム・クレモンを連れて来た。セルジュとポーレットクレモンは中年の夫婦で息子はおらず4人の娘達はもう嫁いでしまったので寂しいらしくいつも二人をかわいがってくれていた。 
「オスカル,セルジュが医者をむかえにいってくれた。それまでポーレットがついていてくれる。」  
「大丈夫さ。あたしだってもう10人もの孫をこの手で取り上げてんだから。さあアンドレ,ここは男のいる所じゃないよ。お湯でも沸かしておいで!」  
アンドレは自分の寝室から追い出されて仕方なく水を汲んできたり 湯を沸かしたりしていた。暫くしてセルジュが医者を連れて来てからは少し落ち着けと勧められたワインを一気に飲みほし寝室の前を行ったり来たり。 

どのくらい経っただろうか..ようやく夕焼けで西の空が紅く染まった頃静寂を突き破る元気のよい赤ん坊の泣き声が響き渡った。 寝室の扉が開いてポーレットがでて来た。 長年の野良仕事で日に焼け深い皺の刻まれた顔をもっと皺だらけにして微笑みながら 
「アンドレ、とっても綺麗な女の子だよ!」 
その言葉に安堵と共にアンドレの眼から大粒の涙が零れ落ちる。 寝室に入るとオスカルが彼の名前を呼んだ。 その声は誇りに満ち一段と優しい響きが有った。 
「アンドレ...私に似ていると思う。金髪で蒼い瞳で恐ろしく元気がよい。」 
オスカルの横に腰を下ろしたアンドレはオスカルの頬に口づけした。彼女の頬も喜びの涙で濡れていた。
「ありがとうオスカル。こんな俺に娘を授けてくれて。」 
「アンドレ…愛している。」 
「俺も愛しているよ。」 
オスカルの胸に抱かれ早速乳を飲んでいる赤ん坊の髪を優しく撫でながらアンドレが尋ねた。 
「この子の名前は?」  
「セシルはどうかな?」  
「聖セシルか…音楽家の守護聖人だな。良いぞ,素敵な名前だ!” 
「良かった! じゃ決まった。おおセシル…私達の娘…」 

オスカルはしずかに微笑んだ。 そして心の中で呟いた。  
「私のアンドレ…聖セシルはね、盲人の守護聖人でもあるのだよ。私達の聖セシルが何時までもおまえを守ってくれます様に…」 


あとがき:ストーリーのタイムラインが前後してしまいすみません。妄想が起きるに従って書いているので...そのうちに年代やストーリーライン別にまとめてみますね。

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Missy

Author:Missy
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